G大阪長谷川監督「卒業」の内幕… 後任首脳陣にはブラジル路線も検討 U-23監督の宮本恒靖氏にも注目

安定か、それとも、チャレンジか-。究極の選択はチームを劇的に変える可能性を秘めている。サッカーJ1G大阪は、国内3冠達成など4個のタイトルをもたらした長谷川健太監督(51)を今季限りで退任させることを発表した。シーズンが佳境に入る前の異例の公表の背景には、現状打破を探るクラブ側と、5季目の長期政権を迎えた監督側の双方にとっての未来志向の「挑戦」がある。リーグきっての「常勝軍団」には、国内はもとよりアジア有数のクラブになることが求められている。監督交代劇の内幕に迫った。

J2降格の後の立て直しに貢献

突然の公表だった。7日夕方、G大阪は長谷川監督と来季の契約を更新しないことを発表した。
長谷川監督は、G大阪がクラブ史上初めてJ2降格した2013年に就任し、課題だった守備の立て直しに取り組んだ。日本代表FWとして活躍した現役時代の経験から、攻守が入れ替わった際に、相手の攻撃の芽を早期に摘むスタイルの重要性を抱き、守備組織の構築に重点を置いた。
そうして、堅守速攻のスタイルを確立させて、13年にJ2優勝でJ1昇格。14年はJ1優勝に加え、ヤマザキナビスコ・カップ(現YBCルヴァン杯)と天皇杯の3冠を達成。翌15年シーズンには天皇杯2連覇を果たし、クラブを復権に導いた功績は極めて大きい。

アジアで負けた健太ガンバ

一方で、戦術面では3バックを試みるなど変化を加えてきたものの「マンネリ化」も散見されてきたのも事実だ。08年に頂点に立った実績のあるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)は、クラブとして結果を出すことが求められている。15年は4強入りを果たしたが、今季は日本勢唯一となる1次リーグ敗退の屈辱を喫した。
5季目を迎えた「健太ガンバ」。新しい血を入れてチームの成長を促すため監督交代に踏み切るのかどうか-。クラブ内では「安定を求めるのか、チャレンジするのか」と、今季当初から議論が重ねられていた。その過程では契約延長の選択肢も検討されたという。
退任発表時のコメントで「卒業」という言葉を用いた山内隆司社長は「トータル的に勝てるサッカー。これは長谷川監督に残してもらった大きな財産。敬意と感謝です。われわれにとって救いの神」と強調する。その上で「5年、10年先を考えたとき、ずっとチャレンジしないクラブでいいのか、と。次に行くのに勇気が要りました」と、編成会議の一致として退任を決断したことを明かした。

強化編成を取り仕切る梶居勝志強化部長は「チームも変革していかないといけない。次のステージに上がるために、契約が切れるタイミングがチャレンジするときと思い、判断した」と説明する。
ルヴァン杯準々決勝第2戦の翌日の今月4日、山内社長、梶居強化部長と長谷川監督による面談が設けられ、退任の決定事項が伝えられた。梶居強化部長は「監督を最大限リスペクトしている中で正直に伝えたほうがいい。いい形で送り出したいという思いだった」と強調する。早い段階の公表については長谷川監督自身が「チームとしてすっきりとした形で指揮を執りたい思いがある」との考えがあることから、双方同意で発表に踏み切った。
2020東京五輪の代表監督候補に

それでも、これまでの実績は、長谷川監督にとっては苦労の連続の中で挙げた結果だった。ACLを戦う過密日程の中で、選手のコンディションは困難を極め、厳しい台所事情で切り盛りを強いられた。昨夏にエース宇佐美、今夏にはチームの主力となりつつあった、有望株の19歳堂安が海外移籍。今季の補強は前線の強化が十分だったとはいえない。監督自身が今季、「このチームは毎年、主力級がいなくなる。割り切ってやるしかない」と漏らしたこともあった。
退任発表翌日の8日に取材に応じ、「自分としてはクラブの決断に従うしかない。最後の最後まで一つでも多くのタイトル、勝利を取れるよう、選手ともにスタッフ一丸となって戦うだけ」と改めて決意。どんな状況でも勝負に徹する、男気あふれる哲学を示した。
気になるのは、若手育成に定評がある名将の今後だ。3年後の東京五輪の代表監督候補に期待の声が挙がっている。今月8日の取材に対し「全く白紙。そういうことは任す人(代理人)に任せて、自分は現場に集中してやっていきたい」と話すにとどめた。

新監督選びには、2012年の教訓が…

後任の人選は急ピッチで進められている。ここで関係者が不安げに口をそろえるのが、2012年の「トラウマ」だ。G大阪は11年オフに、ACL優勝など10季にわたって指揮した西野朗元監督(現日本サッカー協会技術委員長)との契約終了を決断した。しかし、後任選びには失態を重ねた。
元日本代表の呂比須ワグナー氏(現J1新潟監督)を迎えようとするも同氏のライセンス問題で断念。呂比須氏をヘッドコーチに充て、同氏の師匠に当たるブラジル人のセホーン氏を指揮官に据えた。だが、開幕からの成績不振で早々の3月末に解任。生え抜きの松波正信コーチを新監督に据えてシーズンを戦い、結局クラブ初のJ2降格に陥った。梶居強化部長は「2012年に苦い思い出もあるので、反省も踏まえる」と同じ轍を踏まない覚悟だ。
後任人事で山内社長が重視するのは「G大阪はタイトルを取ってナンボ。Jリーグで常勝を目指すのはベースで、アジアで勝てること」だ。豊富な実績を持ち、確かな手腕を誇る指導者を優先条件に掲げ、ブラジル路線も含めて国内外問わず絞り込みをしている。
また、クラブ内には「戦略より人」と求心力を求める声もある。候補者との面談を通して、理想のサッカー観や人間性も見極め、年内に決定する方針だ。
クラブOBで元日本代表主将の経歴があり、現在はG大阪U-23監督を務める宮本恒靖氏に注目が集まるが、大事にしたいだけに時期尚早との見方もある。
常勝軍団がゆえに再度の失敗は許されない。

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