遠藤保仁「俺自身がしたいのは……」ガンバが失ったタイトルとスタイル。

リーグ戦6試合連続未勝利。ガンバ大阪の現状だ。

10月22日の浦和戦では、3-3のドロー。敵地埼玉スタジアムで後半47分に追いついた展開はガンバの勝利への執念、粘り強さが発揮されたと言えるが、結果の中身を紐解いてみると、手放しで喜べない状態であることが分かる。

ガンバの3得点中、2得点はセットプレーからだった。

「それ(セットプレー)も大事だけど、最近はなんとなく前に行って、なんとなくチャンスになっているのが多い。相手を崩してビッグチャンスというシーンがほとんどない」

遠藤保仁が言うように現状のガンバは、ボールを回しながら相手の隙をついてスピードを上げたり、一気に攻めてスルーパスで沈めるなどの意図した攻撃がない。

もっとも長谷川健太が監督に就任した2013年以来、パスをつないで相手を動かして崩していく西野時代の攻撃スタイルを一新。守備主体でハードワークをこなし、アグレッシブに前に出ていってゴールを狙うスタイルに変貌した。実際に今季もホームでのセレッソ大阪戦やFC東京戦は、そのスタイルで勝った。

監督退任発表以降、チームの統一感が失われつつある。

 だが今はそのスタイルさえ、ボヤけているように映る。厳しい言い方をすれば、何の特徴もないチームになっているのだ。

統一感が失われつつあるのは、9月上旬に長谷川健太監督の退任が発表されたことと無縁ではないだろう。

得意のカウンターを封じられ、ゴールを決められるスペシャルな外国人選手が存在しなかった。前線の外国人選手への依存度が高いガンバにとってそれは致命的で、攻撃がうまく機能していないことはシーズン当初から選手自身も感じていたはずだ。それでも長谷川監督の意図するサッカーを実現するために、との思いで戦っていた。

しかし監督退任が決定したことで、選手をつないでいたはずの糸がほつれている。

カウンターだけではなく、ボール回しもしないと。

 「まぁ……相手をいなしたり意表をつくとか、そういう攻撃じゃなく、相手に分かりやすい攻撃をしている。裏を狙うのはいいけど、裏にボールが入っても2列目、3列目の選手との距離が離れているんで、前が孤立してしまう。カウンターだけではなく、DFラインを押し上げて相手陣地に全員が入るぐらいのボール回しをしないといけないけど、けっこう間延びしているからね。ボール支配率60%以上で勝ったという試合は、昨年も今年もないんじゃないかな」

遠藤は厳しい表情でそう言うが、もはや西野時代のパスサッカーに回帰することは難しい。今のレギュラーは、ハードワークしてデュエルに勝ち、素早くゴールを狙う長谷川監督のサッカーで飛躍してきた選手たちだ。もし遠藤が“あのパスサッカーをもう一度”と思っていたとしても、西野時代のサッカーを知る選手の数多くは、ガンバを離れてしまっている。かつてのスタイルを体現できる選手はほとんどいないのだ。

「たまたま」「なんとなく」の中途半端な攻撃。

 ただ、持ち味としたはずのハードワークにも冴えが見られない現状で、「今のガンバはどういうスタイル?」と聞かれた時、果たして選手たちはどのくらい明確な答えを提示できるだろうか。

「守備的なのか攻撃的なのか、みんな迷うところだと思う。それがガンバの現状だよね。俺自身は川崎みたいなサッカーをしたいと思う。それは多くの選手がそう望むだろうし、見ていても楽しいと思うから。でも、今は健太さんのコンセプトがあるんで、それを勝手に打ち壊してやるわけにはいかない。それをやりつつ選手がうまくコントロールしてやるのが理想だけど、それができていないから、こういう状況になっているわけで……」

遠藤の表情が曇る。

ここにきて何かを大きく変化させることは難しい。とはいえ、ピッチに出たら戦わないといけない。心理面の微妙な揺れ具合が「たまたま」「なんとなく」という中途半端な攻撃となって、迫力を欠く要因になっているのかもしれない。

倉田、井手口、東口ら日本代表がいるのだが。

 今シーズンのガンバは、無冠に終わることが決定した。

リーグ戦はACL圏内の3位はおろか、トップ5に入るのも厳しい。このままでは2012年の17位は抜きにしても、2008年の8位にも及ばずシーズンを終えてしまう可能性がある。

「2008年の時は、攻撃的なスタイルで途中からACLに重きを置いて戦った。リーグ戦はよくなかったけど、悪いなりに楽しいサッカーができたし、攻撃的なスタイルを貫くことができた。だから、ACLで優勝できたし、クラブW杯でマンUにもあれだけ戦えたんだと思う。今は相手に主導権を握られる試合が多い。それならそういう戦い方をしないといけないんだけど失点が多いし……なかなかうまくいかない。うーん……難しいね」

この遠藤の「うーん」と考える時間の長さと小さな溜息がガンバの現状を表していると言えよう。チームには日本代表の倉田秋、井手口陽介、東口順昭らがおり、彼らは個々で頑張っているがチームとしてのサッカーには物足りなさを感じている。浦和戦も「内容としては……」という声が多かった。本来すべきサッカーにブレが生じ、しかも勝てていないので楽しさも感じていないだろう。

「今日の試合、よかったよね」というものを。

 残り4試合、ガンバは何をみせるべきか――。

「ガンバはここ10年間、シーズン終了まで常になにかのタイトルに絡んできたので、こういう何もない状況に慣れていない。モチベーション的に難しいけど、残り4試合、もっと相手の嫌がる攻撃をして、対戦相手に少しでも嫌がられるような試合をしたい。ボールを回しながら相手のほころびを突くとか、前からプレスがきても2、3個パスコースを作って状況を打破しながらスピードアップして攻めるとか、もっと自由に、みんな伸び伸びとやって、見ている人も俺らも“今日の試合、よかったよね”っていう試合を1つでも多くやりたい」

幸か不幸か残り試合のうちに、遠藤が好みと口にした川崎との試合が残っている。

ポゼッションと鋭い攻守転換を両立している川崎と戦って刺激を受けることもあるだろう。新しいスタイルは新監督の構想によるが、それでも何かしら手応えを掴み、不本意だった今シーズンの中で光明となるプレーをしてほしい。

形はどうあれ、「たまたま」や「なんとなく」の攻撃はガンバらしくない。

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