クルピ新体制で攻撃に苦しむガンバ。「J2陥落時のような不安が…」

遠藤保仁をどこで、どう生かすのか――。沖縄2次キャンプを見る限り、そんな興味深いテーマが浮かんだが、今やそれどころではなくなってしまった印象だ。

レヴィー・クルピ新監督を迎え、攻撃的サッカーへの回帰を掲げるガンバ大阪のことだ。

遠藤を2シャドーで起用する4-3-2-1の新フォーメーションを導入して挑んだ、京都サンガ、東京ヴェルディとの練習試合をともに0-0で、遠藤をアンカーに置く、中盤がダイヤモンド型の4-4-2で臨んだ浦和レッズとの練習試合を1-1で終えると(いずれも主力組同士の結果)、帰阪してから4-2-3-1に変更。2月17日に徳島ヴォルティスとの最後のテストマッチを迎えたが、後半は完全に主導権を握られ、0-2と完敗してしまった。

指揮官は「収穫はこれが練習試合だったこと。まだ修正する時間がある」と気丈に語ったが、一方で「チームとしてレベルが低い」「クリエイティブな部分が物足りない」と本音も覗(のぞ)かせた。

より危機感を露(あらわ)わにしたのは、左サイドハーフとトップ下を務めた倉田秋である。

「監督が代わり、フォーメーションも変わって、やることも変われば、うまくいかないのも当たり前だと思うけど、このままズルズルいけば、J2に落ちたときのようになる。それくらいの不安を自分の中で抱えている」

「監督は回せ、回せと言う」と1トップを務める長沢駿が明かすように、狙うは、ボールを保持して主導権を握るスタイルだ。遠藤も「今年は攻撃的にやる。撃ち合いは増えると思う」と語っている。

それには、ボールホルダーに対して周りが的確なタイミングと角度でパスコースに顔を出し、何度もポジションを取り直し、3人目、4人目の選手が絡んでいく必要がある。だが、前監督・長谷川健太体制の5年間、ポゼッションとは真逆のスタイルだったがゆえにチーム全体の感覚が薄れているのか、徳島戦では選手の動きが鈍かった。

例えば後半、ボランチに入った遠藤が自陣のバイタルエリアでボールを失う場面があった。徳島のプレスにハメられたこのシーン。遠藤をサポートする動きが見られず、パスの出しどころがなかった。

あるいは前半、トップ下に入った遠藤が前線でフラフラしていたり、相手の中盤と最終ラインの間でフリーになっていたりしても、パスが出てこない場面が何度かあった。遠藤は言う。

「(自分が)前目のポジションに入れば、いろんな角度でボールを受けられるようにしたいと思っていて、それはみんなに伝えているんですけどね。ただ、そういう動きを繰り返すことで、自然と見えるようになると思うので、時間はかかるかもしれないけれど根気強く続けていくしかないですね」

問題をより難しくしているのが、今野泰幸の不在だろう。沖縄キャンプ中に捻挫した今野は、この徳島戦の時点でもまだ全体練習に合流できないでいた。

ボール奪取に優れたファーストボランチだが、強みはそれだけではない。つなぎのパスとサポートのポジショニングにも長けていて、人と人をつなげられるタイプ。その不在が攻守両面で新生ガンバに大きなダメージを与えている。

徳島戦では矢島慎也(浦和レッズ→)と市丸瑞希という、攻撃に強みを持つ同士がボランチを組んでいた。矢島も気の利くポジショニングとプレーでパスワークを潤滑にさせられるタイプ。しかし、その矢島が退いた後半は、攻撃の形をほとんど作れなかった。

個人的な見解を明かせば、沖縄キャンプでトライした4-3-2-1のほうが可能性を感じられた。もちろん、初めてトライするフォーメーションだけに選手たちも探り探りだったが、狙いがはっきりしていた分、それぞれがすべき仕事が明確だった。

1トップには長沢が入り、2シャドーには遠藤と倉田が入った。ふたりはいずれもシャドーストライカータイプではないが、キープ力のある彼らがボールをキープして時間を作ることで、3ボランチの左右に入る矢島や初瀬亮が飛び出し、左右のサイドバックである藤春廣輝とオ・ジェソクまでもが前線に駆け上がっていく。

こうした攻撃について倉田は「次々と湧き出てくるような」と語ったが、その表現は攻撃の狙いをぴたりと言い当てていた。噛み合ってくれば、分厚い攻撃を仕掛けられそうな雰囲気があった。

守備面においても2列目と3列目がサイドにスライドし、シャドー、ボランチ、サイドバックの3人がタッチライン際で相手を囲んでボールを奪うと、そのまま速攻を仕掛けられる魅力があった。

一方、徳島戦での4-2-3-1は選手がそこにいるだけ。パスワークのコツについて遠藤は「ポジショニングがよければ、ボールは自然と回るもの」と語ったが、まさにそのポジショニングが悪く、選手間の距離が遠いからパスがつながらず、相手にハメられてしまう。守備においても、どこでどう奪おうとしているのかが見えなかった。

ポゼッションを好む監督のタイプはさまざまだ。名古屋グランパスの風間八宏監督のようにトレーニングで選手の技術を徹底的に引き上げるタイプもいれば、北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督のようにポゼッションのメカニズムをフォーメーションや戦術を通してチームに植えつけるタイプもいる。

クルピ監督は能力のあるタレントを並べ、自由に気持ちよくプレーさせるタイプ。それならば、中盤では井出遥也や中村敬斗(三菱養和SCユース→)、サイドバックでは米倉恒貴らを積極的に起用し、技術があり、パスをつなぐ術(すべ)を理解している選手たちでメンバーを固めたほうがいいかもしれない。

「3週間でパーフェクトにできるものではない。修正する時間は少ないけれど、課題を一つひとつ潰していって、いいチームにしていきたい」と遠藤は言う。

今野やFWアデミウソン、MF藤本淳吾といった負傷者が戻ってきたり、20歳のプレーメーカー市丸が自信をつけたりすれば状況も変わってくるだろうが、いずれにしても、つなぐスタイルのイメージや決まりごとを共有するには、実戦を数多く積むしかない。

名古屋、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、柏レイソルと難敵との対戦が続く第4節までは我慢しながら、焦(じ)れずにやり続けるほかないだろう。

勝負は、3月31日に行なわれる第5節のFC東京戦。指揮官は言うまでもなく、昨シーズンまでガンバを率いていた長谷川新監督である。そこで、今シーズンのガンバの真価が問われることになりそうだ。

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