Jリーグを席巻する「恐るべき10代」たち サブ以上スタメン未満からの脱却なるか

“アンファン・テリブル”がにわかに脚光を浴びつつある。開幕からちょうど1カ月が経過した今季のJ1リーグのことだ。この「恐るべき子供たち」の正体は、いわゆる東京五輪世代(1997年1月以降生まれ)である。なかでも興味深いのが、まだ成人していない10代の選手たちだ。

何しろ、今季のJ1はサガン鳥栖のスピアヘッドを担う19歳のゴールで幕を開けた。プロ2年目の田川亨介だ。開始早々につかんだPKのチャンスを、難なく仕留めて見せた。

開幕戦でピッチに立ったプロ2年目の19歳は計5人。うち田川、北海道コンサドーレ札幌の菅大輝、湘南ベルマーレの杉岡大暉の3人は昨季から主力の一角に食い込んでいたから「新顔」ではない。

最大の驚きは、開幕戦でJ1デビューを飾った18歳以下の「新人」たちだ。なかでも名古屋グランパスのDF菅原由勢とガンバ大阪のMF福田湧矢の2人は、いきなり先発リストに名を連ねた。

すごいのは、17歳の菅原である。

2センターバックの一角に入り、堂々のフル出場。肝心のパフォーマンスも風間八宏監督から「素晴らしかった」とたたえられる出来栄えだったから、並みの新人ではない。際立つのは、まるでベテランのような落ち着きだろう。戦況を冷徹に見極める「目」を持っている。しかも、情報処理能力が高く、プレーに迷いがない。ムダにバタつかないわけだ。加えて、技術もスピードも十分。危険地帯に先回りしてボールを奪い、アタック陣に平然と縦パスをつける。いまや名古屋のパスワークを回転させる、立派な歯車のひとつだろう。

「年齢は関係ない。沖縄キャンプから、ものすごく良いパフォーマンスを続けていた」

風間監督はスタメンに抜てきした理由を、こう話す。良いものは良い――というわけだ。身長179センチ。圧倒的な高さでゴリ押しされたケースの対応力は未知数だが、J1にその手のチームは少ない。当面の課題は1対1における駆け引きや、ハイラインに伴うポジショニングだろうか。それも場数を踏むことで、ひとつひとつ解決していけるのではないか。

『開幕スタメンを飾った福田、切り札として期待される中村』

菅原同様、開幕スタメンを飾った、もう1人の10代がG大阪のMF福田だ。同クラブでは「10代の開幕先発」は、決して珍しいことではない。過去に稲本潤一や宇佐美貴史などがいるが、クラブのアカデミー出身者以外では福田(東福岡高)が初めてとなる。

だだし、今回の大抜てきはチーム事情によるところが大きい。重鎮の今野泰幸がけがで戦列を離れ、ボランチの一角が空席になった。そこで新監督のレヴィー・クルピは、18歳の高卒ルーキーに目を付けた。福田の本職は攻撃的MFである。4バックの手前で敵をつぶす仕事に不慣れな分、守備面で多くの課題をのぞかせたのは確かだ。今野の復帰もあり、先発から外れていった。今後、ボランチの一角を狙うなら、同じ東京五輪世代の先輩でもある市丸瑞希がライバルになるだろう。

目下、G大阪で福田以上に耳目を集めているのが、17歳の中村敬斗だ。開幕戦では途中出場を果たし、試合のリズムを変え、強烈なミドルシュートを繰り出すなど、存在感を放った。中村もアカデミー出身者ではないが、プロの門をくぐった逸材。昨年のU−17ワールドカップ(W杯)で前述した菅原らと日本代表の主軸を担い、ホンジュラス戦でハットトリックを決めたのは記憶に新しい。

圧巻だったのは3月14日に行われたルヴァンカップの浦和レッズ戦だ。後半42分、日本代表のDF槙野智章を背負った状態で味方のボールを引き出し、くるりと反転。そこから一気にゴール前までボールを運ぶと、最後はベテランの阿部勇樹に寄せる隙を与えず、鮮やかにゴールネットを揺らしてみせた。

いわゆる「止める・蹴る」の技術は言うに及ばず、ゴールへ向かう姿勢がいい。俺がやらねば誰がやる、と言わんばかりだ。そうでなければ、自陣から独走して点を決める芸当など無理な話だろう。しかし、あまりガッついた感じがしないから不思議である。プレーの選択に無理がないからだろうか。強引さよりも計算づくし――といった趣(おもむき)。このあたりも新人離れしたものだ。

目下の位置付けは、ジョーカー(切り札)だろう。この先、スタメンに「格上げ」されるかどうかは得点という「結果」次第か。クルピはセレッソ大阪を率いた時代に若手の香川真司をたきつけて、ゴールマシンへ変貌させた実績がある。アタッカーは点を取ってナンボ――が名伯楽の持論だ。これは中村にとっても望むところだろう。当然、注目度が高くなるにつれて、敵のマークも厳しくなる。それをかいくぐっていくだけのタフな精神力を持っているか。強気のプレーを見る限り、その見立ても杞憂(きゆう)に終わるだろう。

『「新人扱い」がピント外れに見える久保のプレー』

 この中村と並ぶ「サブ以上スタメン未満」の超新星が、FC東京が誇る16歳である。言わずと知れた、久保建英だ。こちらは露出が多すぎて「新人扱い」がピントはずれに見えてくる。

そうは言ってもまだ、スタメンの座を手にしていない。開幕戦では交代出場するや、攻撃のリズムをがらりと変えている。数秒後の未来を見通すプレーぶりは、まるで倍速映像を見るかのようだった。とにかく、テンポが速いのだ。情報処理のスピードが速く、相手はおろか、味方も久保の企図(アイデア)についていけない場面もあったほど。周囲とイメージの共有が進みさえすれば、久保自身の見せ場がもっと増えてもおかしくない。
長谷川健太新監督の下で公式戦初勝利を飾ったルヴァンカップのアルビレックス新潟戦で4人のDFが群がる密集から脱け出し、殊勲の決勝ゴールを決めた。自ら「得意の形」と語る左45度付近から、鋭く左足を振り抜いた。ボールを持ったときの実力は、誰もが認めるところだろう。ただ、長谷川監督はスタメン起用に慎重だ。前線からガンガン圧力をかけるアグレッシブな守備に物足りなさがあるせいか、ボールがないところでのハードワークをどこまで消化できるか。それが、長谷川政権でスタメンを勝ち取るうえでのノルマかもしれない。

J1のピッチに立つ10代の若者は、増え続ける一方だ。浦和の荻原拓也(18歳)はルヴァンカップ第1節でプロ初先発初ゴール。それも1試合に2得点の離れ業を演じ、第4節の横浜F・マリノス戦でJ1デビューを飾っている。

第4節で「ルヴァン経由リーグ戦行き」の切符をつかんだ若者は、何も荻原だけではない。同じ18歳の新井光(湘南)に加え、横浜FMの吉尾海夏(19歳)や名古屋の成瀬竣平(17歳)もチャンスを得ている。さらに、ヴィッセル神戸の郷家友太(18歳)は右のMFとして先発リストに名を連ね、2−0の勝利に貢献。ルヴァンカップにおける働きがフロックではなかったことを証明している。AFCチャンピオンズリーグでは、18歳の安藤瑞季(C大阪)も途中出場を果たした。

負ければクビが飛ぶ可能性もある指揮官に、実力のない選手をわざわざピッチへ送る余裕などない。いずれも「資格あり」と認められてのデビューである。しかも、不思議と臆する選手も、入れ込みすぎる選手も少ないのが印象的だ。むしろ、見ているこちらの方がアドレナリン全開――のような気がしてくる。まるで「試合に出たくらいで騒ぎなさんな」と、諭されているかのようだ。本来の力をストレートに出し得る落ち着きが、この世代の強みなのか。そうだとすれば、やはり「恐るべき10代」である。

 

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