必要なのは今野泰幸の“勝たせる力”。開幕戦を3度見返した高宇洋の誓い。

ガンバ大阪と横浜Fマリノスがパナソニックスタジアム吹田で顔を合わせたJリーグの開幕戦。昨季の苦しい残留争いでの牽引力となり、シーズン終盤の9連勝を支えた今野泰幸に代わって、ガンバ大阪の中盤に入ったのはプロ3年目を迎えた高宇洋(こう・たかひろ)だった。

「今年はコンさん(今野)のポジションを奪いにいきたい。そのために必要になるのが、チームを勝たせたという周囲に対するインパクト」

独特の高揚感がピッチ上のみならずスタジアム全体を覆う開幕戦で、ガンバ大阪は開始早々の40秒で先制。しかし前半だけで3失点を許し、痛恨の逆転負けを喫した。

「まだまだだなというのを突きつけられた感じ。でも、ここで下を向いていても変わらない」

試合後の取材エリアで懸命に言葉を紡いだ20歳だったが、帰宅後は悔しさのあまり、眠る気にもなれなかったという。

眠れずに、試合映像を2度見直す。

 習慣にしているサッカーノートに、知らず知らずのうちに「勝つ」という言葉を何度も書き込むほど入れ込んでいた開幕戦で、失点に絡むミスを犯し、後半15分にピッチを後にした。

体は疲れ切っていたにもかかわらず、高は自宅で悶々とした時間を過ごした。日付が変わろうとする頃、彼が手にしたのはテレビのリモコンだった。

「試合を見ようかどうか迷っていたけど、眠れないので見ることにした」

1回目はチーム全体の動きと試合の展開を追うマクロの視点で、そして2回目は自身のプレーを細かく振り返るミクロの視点で、試合をチェックした。

直接的に失点に関わったのは、自陣深くで天野純にあっさり突破を許し、さらにクリアミスを三好康児にねじ込まれた2点目だったが、1点目と3点目も高があっさりと縦パスを許したことが遠因になっていた。

「ボールを奪うのが自分の役割だった」

 「ある程度、相手にボールを握られるのは想定していたけど、マークの受け渡しがズレて、うまくいかなかった部分もあって後手を踏んだ」と遠藤保仁が振り返ったように、この日のガンバ大阪はチーム全体が低調だった。ボールの奪いどころがはっきりしないだけでなく、球際の迫力や出足でも横浜FMに劣っていた。

独特のボール回しとポジショニングを武器にする横浜FMの完成度の高さが、ガンバ大阪を凌駕したのは間違いないが、高自身は自らのパフォーマンスをこう総括するのだ。

「失点シーンも僕のところで簡単に剥がされていたし、ボールを奪いきれていなかった。しっかりと奪える選手がいればチームに安定感をもたらしていたし、それがあの試合ならば自分の役割だった」

市立船橋高校サッカー部の3年時にボランチにコンバート。しかし当時は背番号10を背負っていたことからも分かるように、攻撃的な役割を求められるセグンド(第2)・ボランチとして活躍した。しかしガンバ大阪入団後、当時ガンバ大阪U-23の指揮官だった宮本監督の指導もあって、その役回りを変えていく。

遠藤のバックアッパーがベガルタ仙台から期限付き移籍を終えて復帰した矢島慎也ならば、今野の代役として期待されるのが高だ。昨年からの懸案事項である守備重視のプリメイロ(第1)・ボランチとして台頭が待たれるが、開幕戦が及第点にはおよそ程遠い内容だったのは間違いない。

宮本監督からは優しくも厳しい評価。

 もっとも、16分には相手の縦パスを摘み取り、カウンターへのスイッチを入れたことがファン・ウィジョの決定機につながるなど、持ち味の一端も披露した。宮本監督は愛弟子の60分間について「13試合目のJ1出場という中で、多くのものを求めるのは難しいところがある。ただ局面の強さや、勝負どころをやられないとか、試合の流れの中でしっかりとボールを動かす力はより伸ばして行ってもらいたい」と指摘した。

試合当日の夜に2回、さらに翌日にももう1回、横浜FM戦を振り返った20歳は、改めて自らに誓ったことがあるという。

「僕はボールを奪える選手にならないといけない。それを再確認することが出来たので、決してマイナス要素だけの試合ではなかった」

強がりでも、大風呂敷でも決してない。課題を1つずつ、そして着実にクリアしていく謙虚さを持ち合わせているのが高という青年だ。だからこそ、オフ明け初日となる26日には、練習後に様々なシチュエーションでのクリアなども確認した。次に巡ってくるチャンスを待ちわびているのだ。

今野の代わりは高にしかできない。

 今季は遠藤と今野を基本軸に、矢島と高がバックアッパーとして控えるガンバ大阪のボランチ陣だが、開幕戦では後半から高に代わって倉田秋が起用された。タイプの異なる5人をいかに組み合わせるかという作業が宮本監督を待っている。

もっとも、今野不在時に似た役回りをこなせるのは高のみである。「次にいつ試合に出られるか分からないけど、チャンスが来た時にはそれをつかみたい。勝たないと自分のポジションも評価されないのでしっかりと準備しておきたい」

3年目を迎えた若武者の成長がなければ、今野不在に泣いた前任のブラジル人指揮官と同じ悩みを宮本監督は抱え続けることになりそうだ。

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