エムボマ、アラウージョを超えてゆけ! 絶好調のアデミウソン、その美しき技巧と献身

誰もが囁く。「今年のアデはヤバイ」と

[J1リーグ第4節]川崎 0-1 G大阪/3月17日/等々力

パトリック・エムボマ、アラウージョ、マグノ・アウベス、ルーカス、そしてレアンドロ。ガンバ大阪の前線を牽引してきた伝説の助っ人ストライカーたちだ。彼らが繋いだ栄光の9番を背負って今季で4年目。ブラジル人FWアデミウソンが、出色のパフォーマンスを続けている。

もともとポテンシャルは折り紙付きだ。ジュニア時代から名門サンパウロで英才教育を施され、年代別のブラジル代表にも常に名を連ねるなど、将来を嘱望された。2015年2月に横浜F・マリノスにレンタル移籍した際はまだ21歳。近未来のセレソン候補が入団したとあって、大きな注目を集めたものだ。

しかしながら、日本では鳴かず飛ばずの日々が続いた。

横浜を1年で退団し、ガンバに活躍の場を移す。圧倒的な技巧を誇りながらも組織のなかでいまひとつ連動できず、随所できらりと光るものは見せるが、どこか継続性に乏しい。やがてハムストリングなど大小の怪我に悩まされるようになっていく。2018年4月にはふたたび離脱し、ブラジルに一時帰国。「もうこのまま契約解除か」「退団必至」とも囁かれた。

ブラジルでおよそ1か月を過ごしたのち、再合流して懸命のリハビリに取り組む。ちょうど宮本恒靖・新政権が発足したタイミングで、本人も心機一転、巻き返しに躍起だった。夏以降は先発出場を繰り返しながら少しずつ試合勘を取り戻していくのだが、次第にベンチスタートが増え、ファン・ウィジョと新加入の渡邊千真が幅を利かす前線で3番手の扱いとなってしまう。ニーズを満たしていなかったのは、指揮官が求めるチェイシングとハードワーク、その質と量の両方だ。

チームはシーズン後半戦の快進撃でJ1残留を果たした。アデミウソンも印象的なゴールをいくつか決めるなどまずまずの存在は示したものの、本人にしてみれば不完全燃焼に終わった感は否めないだろう。大反攻作戦は、ここから始まったのだ。

年明けのチーム始動前から、実しやかにクラブ関係者や取材陣から聞こえてきたのが「今年のアデはヤバイ」だった。自身にハードな自主トレを課してきたのだろう。明らかに体重を落として絞り込んできた。一方で首回りは屈強で、ヒップラインはグイっと盛り上がっていて、腕も脚もムキムキである。

自分にはなにが求められているのか、なにが足りないのか。クラッキが導き出した答だった。

「フロンターレ戦は、本当に頭の痛いゲームだった」

 J1開幕から4試合、目を引くのは圧倒的な活動量だ。

2トップの一角に入っても左サイドに配備されても、効果的なチェイシングを絶えず続け、マイボールになるや速さ、巧さ、強さの三拍子が揃った局面打開でショートカウンターの急先鋒となる。とんでもない持久力を発揮しているのである。

アディショナルタイムの劇的弾で川崎フロンターレに勝利した第4節でも、アデミウソンの「美しき技巧と献身」が際立った。左サイドに入って地道に守備で汗を流しつつ、攻撃の突破口を見出せないチームをなんとか牽引せんと、単独の仕掛けを繰り返した。自身はゲームをこう振り返る。

「パス回しが巧いフロンターレが相手なのだから、ディフェンスに時間を割くのは当たり前のこと。本当に頭の痛いゲームだったし、あれだけ動き回って守備をしたのは、いままでないくらいかなと思う。とくに真ん中ではなく、左サイドでの起用だからね。普段より2倍は走らないといけない。守備では藤春(廣輝)を助けて、いざ攻撃となればヤット(遠藤保仁)やシュウ(倉田秋)が助けてくれる。やりにくさはまるでなかったよ」

記者席から見ていると、守→攻の切り替えのところで、やや無謀な仕掛けが多いように感じた。攻め急ぎ、人垣に突っ込んではすぐに囲まれ、チャンスの芽を潰していたからだ。だが、アデミウソンにはアデミウソンなりの計算があった。

「自陣に相手が入ってきてから守備をする、しかもそれが長い時間になると、攻撃の手数を出せなくなってしまう。だから僕はあえて、カウンターで素早く仕掛けた。たしかにそのうち2回や3回は、ドリブルで一気に加速するのではなく、違う選択肢を模索するべきだったのかもしれない。でも、僕は必要だと思ってやった。強引にでもボールを運んでチームにひと息つかせたい、ただその一心だったんだ」

なんたる優等生だろうか。その不屈のファイティングスピリットは最終盤まで衰えず、中央でタメを作って決勝点の基点となった。サイド起用でも与えられた責務を全うし、かつ、持ち味を存分に発揮する。「今年のアデはヤバイ」が確信に変わった瞬間だ。

エムボマやアラウージョたちは、超人的な決定力を誇示してチームを高みへと導いた。一方で最新の9番は、よりチームプレーのなかで圧倒的な個を打ち出し、なにより図抜けた献身性で周囲のストロングポイントまでも引き出している。

J1では過去4シーズン、8得点(33試合)、9得点(29試合)、4得点(22試合)、5得点(17試合)と二桁得点はなし得ていない。今季は第4節を終えて3得点とハイペースで、ゴールラッシュの気配さえ漂う。

ウィジョとの見事な補完性。G史上最強の助っ人コンビに!?

 では、得点王を狙えるか。悩ましいのは、前線でコンビを組むパートナーもまた好調なのだ。韓国代表でもエースのファン・ウィジョである。抜群の補完関係を築いている。

ウィジョにアデについて訊いてみると、「テクニックもスピードも一級品。本当にすべての質が高い」との回答が返ってきた。「お互いがお互いの良さを理解した上でプレーできているから、とくに特別なコミュニケーションも必要ないんだ」とまで言う。アデはアデで、ウィジョをこう絶賛している。

「素晴らしいストライカーだよ。とりわけフィニッシュのクオリティーが見事で、パスのセンスも備えているんだ。そしてなにより彼は、闘う選手。プレーのクオリティーのところだけではなく、味方のパスが少しずれても必死に追いかけてマイボールにしてしまう、ああいったところに、ウィジョの凄みが隠されていると思うんだ」

ヴィッセル神戸のVIPトリオ、サガン鳥栖のスペイン人デュオ、さらには名古屋グランパスのジョー&赤崎秀平など、今季のJ1は特筆に値する攻撃ユニットが目白押し。そしてガンバが誇るこのアデ&ウィジョもまた、シーズンを盛り上げる“華”のひとつとなるだろう。

ガンバ栄光の歴史を紐解けば、いつでも最強助っ人コンビがいた。スランプとは無縁の名フィニッシャーであるファン・ウィジョと、周囲を活かしてみずからも活きる超絶テクニシャンのアデミウソン。娯楽度満点のホットセットが、宮本ガンバに栄華をもたらすか。

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