2年連続で下位に低迷するガンバ。宮本監督の重い言葉とチームの病巣。

昨年は「奪還」、そして今年は「GAMBAISM(ガンバイズム)」をチームスローガンに掲げるガンバ大阪。しかし、2年連続でシーズン早々にスローガンを放棄するような足取りが続いている。

近年、補強ではなく「補充」に終始しているフロントの見通しの甘さについては、これまでに何度も拙稿の中で指摘してきた。

4月14日の浦和レッズ戦で0-1と惜敗。就任後、初となるリーグ戦3連敗を喫した直後の会見で、宮本恒靖監督は世代交代をめぐる悩みを、こう口にした。

「そこのポジション(ボランチ)に関しては、今に始まったことでなく、ガンバがここ数年抱える、どうして行くんだという部分だと思う」

長谷川体制の終盤は点取り屋不足に泣き、レヴィー ・クルピ前監督もまた、手薄なボランチの陣容に苦しんだ。そして、クラブのレジェンドでもある宮本監督もまた、万全とは言えないバックアップ体制の中で、苦悩のチーム作りを続けているのだ。

8節を終えたガンバの立ち位置は15位。何らかの歯車が狂えば、予期せぬ低迷を強いられることはサッカー界において珍しい事柄ではないが、2年連続での低迷はチームの地盤沈下によるものだ。

「いい子ちゃんで勝てるほど……」

 まだシーズン序盤ではあるが、ひたひたと迫り来る降格圏転落の危機――。

フロントだけではない。ピッチに立つ選手もまた、甘さを見せているからこそ、ホームで4敗1分けという数字が残っていると言わざるを得ないだろう。

チームに巣食う一番の病巣は「負のGAMBAISM」である。

「ガンバの選手はおとなしいという部分はあるけど、いい子ちゃんサッカーで勝てるほど甘くはない」

浦和レッズ戦後、守護神の東口順昭は、あえて厳しい言葉を口にした。

「いい子ちゃんサッカー」が、その顔をのぞかせたのは浦和レッズ戦のひとコマだ。スコアレスで拮抗していた後半42分、CKのこぼれ球をエヴェルトンに蹴り込まれ、決勝点を献上したガンバだが、シュートの瞬間、オフサイドポジションに立っていた興梠慎三の関与をめぐって、東口とゲームキャプテンの三浦弦太が飯田淳平主審に詰め寄った。

試合終了のホイッスルと同時に、東口と三浦、キム・ヨングォンは再び飯田主審の元に駆け寄ったが、多くの選手は怒りを見せる様子もなかった。

宮本監督「少しおとなしすぎる」

 もちろん、サッカーにおいて審判は絶対である。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システムを導入していないJリーグにおいて、時に微妙な判定が下されるのはやむを得ないことでもある。しかし、ワンプレーや勝利に対する執着の少なさが、今のガンバが抱える問題に見えてならないのである。

「見ていてもどかしさもあるし、キャンプ中の練習試合でも同じようなことがあった。うちのチームがずっと持っているキャラクターというか、少しおとなしすぎるきらいもあるし、もっと声を荒げるようなシーンがあってもいい」

浦和レッズ戦後、こう話したのは宮本監督だ。

良くも悪くも淡々とプレーする選手が多いガンバだが、タイトル争いを演じてきた時代には必ずと言っていいほど、チームを引き締める「嫌われ役」が存在した。西野朗監督が率いた当時は、現在ヘッドコーチを務める山口智が最後尾から緩いプレーに目を光らせ、長谷川健太監督の時代には岩下敬輔(現サガン鳥栖)がチームにガッツをもたらしてきた。

現在はそんなチームリーダーの不在がピッチ内の成績にも反映していると言えるだろう。

「心の隙」があるのではないか。

 序盤の失点癖は今年のガンバが抱える課題の1つだが、2-3で競り負けた横浜F・マリノス戦後にある主力が口にした言葉に、思わず耳を疑った。

「試合の入りが緩かった」

昨年はシーズン終盤にクラブタイ記録となる9連勝をマークしたが、絶体絶命の状況に追い込まれていた残留争いの危機感は、どこに行ったのか。

「もっとお互いが要求しあって、喧嘩してもいいと思う。ひとりひとりがもっと何とかするという姿勢を見せないとチームは変わっていかないし、ズルズルと行ってしまう気配もある」(東口)

手薄なポジションへのテコ入れも不可欠ではあるが、まず、ガンバに必要なのは選手の意識改革である。

0-3で敗れたサンフレッチェ広島戦後、宮本監督が口にした言葉は実に重いものだった。

「自分たちはタイトルを取ったことがあるチームだというような心の隙というか、そういうものがあるように思う」

一人歩きしている感があるスローガンに拘泥することなく、指揮官はすでに現実的な戦いを見据えている。

宮本監督に今後求められること。

 浦和戦に続くホームゲームだった4月20日の大分トリニータ戦では昇格チーム相手に、5バックを採用。ファン・ウィジョとアデミウソンをベンチに温存し、後半勝負を挑んだガンバは、辛うじて連敗をストップした。

今後、宮本監督に求められるのは「遠藤ありき」のチーム作りからの脱却ではあるまいか。依然、その戦術眼の高さと時折見せる輝きは残しているものの、守備面で明らかに不安を残す39歳の起用法は、チームの浮沈のカギを握ることになるはずだ。

土曜の午後にも関わらず、17727人の観客しか集まらなかった大分戦。それでも昇格組に辛うじてホームで勝ち点1を手にした選手たちを待っていたのは、ブーイングではなく、後半の猛攻を讃える拍手だった。

ユニフォームの左胸で燦然と輝く9つの星は、もはや過去のもの。かつてブラジルで取材していた当時、なんども耳にした決まり文句が、筆者の頭をよぎるのだ。

「カミーザ ナォン ガニャ ジョゴ(ユニフォームで試合に勝つのではない)」

常勝軍団として復権するのか、それとも過去の栄冠にすがるのか――。西の名門は、間違いなくその岐路に立っている。

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