ガンバの希望をつないだ3人の若者。高江・高尾・福田が得た自信と勝利。

ガンバ大阪は18日の第12節、セレッソ大阪との大阪ダービーを制し、8試合ぶりに勝利した。

 降格圏から脱する14位に順位を上げたが、この勝利は勝ち点や順位以上に持つ意味が大きい。

大阪ダービーは、試合前からサポーターが作り出す雰囲気が本当に素晴らしかった。

ガンバの選手バスが入る動線にはサポーターが幾重にも連なる。ただの1試合ではない独特のムードを作り、選手をスタジアムへと導いた。

サポーターが生み出す熱量も圧巻だった。重低音で張りのある声援が突き抜け、飛び跳ねるサポーターにスタジアム全体が揺れ、ボルテージが高まる。選手入場時点から最高のステージを作り出していた。倉田秋が「やってやる」と魂を燃やしたというが、選手は一様に気持ちを高ぶらせていたのだ。

ピッチ上に広がったメンバーは、きっと多くのファンを驚かせたことだろう。

高江、高尾、福田の3人を抜擢。

 「鳥栖戦後のオフからシステムとメンバーを考えていました」

宮本恒靖監督がこの悪い流れを断ち切るために出した結論は、ほとんど試合に絡んでいない若手3人の抜擢であり、3-1-4-2システムの採用だった。

ボランチの高江麗央は今シーズン1試合9分間のプレーのみ。センターバックの高尾瑠と左ウイングバックの福田湧矢にいたっては今季リーグ戦初出場、初スタメンだった。

ガンバはダービーに向けて3人が入ったメンバーでシステムを組み、練習を重ねてきた。これまで守備が破たんしていた状況を踏まえると、かなり攻撃的な3-1-4-2には選手も難しさを感じていたようだ。

だが、宮本監督はそこで引いて守るのではなく、積極的に前に出て守備をする意識を選手に植え付けた。そして「後がない」と言い続けることで危機感をあおり、試合に集中させた。

紅白戦では控え組に遠藤保仁や今野泰幸、米倉恒貴らが入った強力なメンバーを仮想セレッソとして戦い、ゼロに抑えて手ごたえを得た。本職はサイドバックながら右センターバックに入った高尾は「レベルの高い紅白戦でゼロに抑えたんだから、自信を持ってやれ」と宮本監督に言われ、自信を深めたという。

そうした経緯を経て、彼らは「救世主」となるべくピッチに立った。

高江は中盤センターでハードワーク。

 「自分たちがやってやるという気持ちでした」

高尾はそう語っていたが、3人ともに持ち味を出した。

高江は、豊富な運動量と攻守の切り替えの早さで中盤をリードした。3-1-4-2のシステムは、中盤センターの高江と倉田の出来次第と言っても過言ではないが、その高江が攻守両面で貢献したからこそ機能した。守備時は素早く戻り、球際も負けていなかったからだ。

自分たちがボールを持てば、スペースに出て、ボールを引き出す。さらにゴールに絡むプレーを続けた。それこそ高江の持ち味だが、周囲の選手に影響を与えたのは常に全力でプレーする姿だ。

「前半で出し切るぐらいの意識で走ってやろうと思っていました」

高江はそう考えていたという。実際に足がつって後半23分に食野亮太郎と交代したが、高江の勢いに引っ張られてチーム全体がアグレッシブに動けていたのは間違いない。

左WBで攻撃を活性化させた福田。

 初めて左ウイングバックに入った福田は、前半こそ守備を意識してか、ややおとなしめだった。だが、後半に入って自分のペースでプレーできるようになると攻撃面で持ち味を見せた。

宮本監督はチームの課題を「左サイドの攻撃」と話しているが、福田は相手に囲まれても緩急をつけて抜いていくなど、それを克服するに足りる動きを見せた。後半46分、フリーで抜け出し、GKと1対1になったシュートシーンは決めたかったところだが、終盤の時間帯にスピードを発揮できるところが福田の良さだろう。

その動きについて福田は「(G大阪U-23監督の森下)仁志さんと(U-23コーチの宮原)裕司さんが自分を救ってくれたというか、救い出してくれて感謝しています」と述べた。

森下監督と宮原コーチのもと、1次キャンプでは2部練習してから試合をこなすなど、ハードな練習をこなしてきた。60分ぐらいに体力が落ちると「ここからが勝負や」と気合を入れられた。その言葉が今日もプレーしながら甦ってきたという。

「U-23では走るところを鍛えられて、苦しい思いをしてここまでやってきた。仁志さんと裕司さんのためにも結果が出てすごく良かったです」

福田は積み重ねてきたものを発揮し、宮本監督の期待に応えた。

高尾も決勝点につながる縦パス。

 高尾は序盤こそ緊張からか、相手に裏を2、3回取られるシーンがあったが、その後は三浦弦太のフォローを受けて安定したプレーを見せていた。

「自分を含めて若い選手が出ていたので、気持ちを強く持ってアグレッシブにプレーしようと思っていました。前から積極的にいく守備をしたぶん、横へのスライドが遅れてしまうとズレてしまう。サイドバックの時のように上がり過ぎず、弦太君との距離感を考えながらプレーしていました」

長い手足を活かしてボールを絡め取り、攻撃では倉田のゴールにつながる縦パスを入れ、ビルドアップでも非凡なものを見せた。

「使っていただけるならどこでもいい」と謙虚な高尾は「センターバックが本職(サイドバック)にも今後の自分にも活きると思う」と試合に出ること、成長することに対して貪欲だ。

試合後は好プレーをしたのにチームメイトにイジられたというが、今野泰幸とはまた別の“イジられキャラ”が新しく出てきたことはチームのムードをより明るくするだろう。

宮本監督が練習で口にした助言。

 決勝点になった倉田のゴールは、高尾が高江に縦パスをつけ、高江のラストパスを倉田が決めたものだ。高尾は「前半から狙っていた」といい、高江は「瑠くんがあそこを狙っているのは分かっていたし、うまく受けることができたのが大きかった」という。

この縦パスは、練習中から高尾が見せているものだが、その時は高江がコントロールをミスしたという。宮本監督からは「あそこでスピードを出し切るよりコントロールする時の余裕を持て」と言われた。「それを(今回)しっかりと出せた」と、高江は語ったが、若手同士の意思疎通と練習での成果があのゴールにつながったのだ。

大阪ダービーに勝ち、ガンバはひとまずトンネルから抜けた。

だが、すべてが好転したわけではない。こういう気持ちの入った試合をまた同じエネルギーで戦うのは容易ではないし、対戦相手も違う。若い彼らは年間を通して試合に出てプレーした経験がない。これから疲労も出てくるだろうし、研究もされるだろう。それでもこの日、試合の中で結果を出し、どうプレーすれば勝てるのかを理解できたことは非常に大きい。

今野、遠藤が控えている安心感。

 ただ、忘れてはいけないのが若手3人が活躍できた背景には中堅、ベテラン選手の存在だ。

ファン・ウィジョは試合後、しばらく立ち上がれないほど疲弊していた。

攻撃ではカウンターやスペースにボールを出された際、長い距離を何度も走った。守備ではボールホルダーを執拗に追った。後半に入ると疲労の色が濃くなり、宮本監督に「ポジションに戻れ」と大声をかけられてもなかなか反応できないほどだった。だが、ファン・ウィジョのおかげで、後ろの選手は非常に助けられていた。

クローザーとして入った今野泰幸と遠藤保仁の存在も大きい。

彼らにとっては本意ではないかもしれないが、ベテランの2人が構えていてくれたおかけで、高江は前半に力を出し切るような勢いでプレーすることができた。

世代交代は、ガンバにとって最重要課題である。

とはいえ、本当に大事なことは若手とベテランのどちらかが際立つのではなく、補完し合う関係を作り出すことだ。

そういう意味ではダービーの勝利で一番の収穫は、従来のベテラン主導ではなく、若手とベテランが噛み合い、結果を出せたことだ。試合後のロッカールームは、若手、ベテランともに喜び、これまでにない盛り上がりだったという。勝ってこそ、選手は自信を深め、チームは勢いに乗ってくる。

大阪ダービーは非常に意味のある、そして価値ある1勝だった。

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