遠藤保仁は願う。「俺らを超える 新しい黄金世代が早く出てきてほしい」

世界2位の快挙から20年……今だから語る「黄金世代」の実態第10回:遠藤保仁(3)

日本が準優勝を果たしたナイジェリアのFIFAワールドユース(現在のU-20W杯)から、20年目を迎えた2019年、遠藤保仁は、今もガンバ大阪でプレーしている。昨シーズン末に小笠原満男が引退し、黄金世代での現役は遠藤を始め、小野伸二、稲本潤一、本山雅志、南雄太、永井雄一郎しかいない。

「俺が20年もやれたのは、運が良かったからやと思っている。1年目に(カルロス・)レシャック監督にサッカー観を変えられて、大きなケガがなくここまでやってこられた。でも、まだ、上にはシュン(中村俊輔)がいるし、俺らの同期では(小野)伸二やイナ(稲本)を始め、ツボ(坪井慶介)も現役でやっているからね。20年間もやっているのは普通やと考えられないし、やめてもおかしくない年齢やけど、いろんなことを乗り越えながらやっているのはすごいことやと思う」

遠藤が言う「すごい世代」は、なぜこれだけの選手が集まったのだろうか。

これを説明するのはなかなか難しい。Jリーグが開幕した影響で意識や技術レベルが上がり、かつ当時のサッカーバブルで稼いだお金を若手育成のために投入し、海外遠征に頻繁に行かせた成果が出た等々言われているが、どれも理由のひとつであって決定的ではない。

「俺らの代だけ、ここまで選手が揃うのは珍しいよね。これはクリアに説明できないでしょう(笑)。Jリーグができたからって言われてるけど、俺らが中学の時なんて、どこのチームもまだ育成に力を入れる余裕がなかった。たしかにJリーグができてプロになりたいという気持ちが芽生えたけど、それで技術がいきなり上がったとかはないからね。環境面を見たら今の若い選手のほうが恵まれているし、プロになりたいという気持ちは今の子どもたちのほうが強い。しかも、Jリーグじゃなくて世界を目指している。でも、俺らの世代を飲み込むような世代がまだないよね」

個々ではすばらしい選手が生まれてきているが、同世代でまとまってというのは遠藤たちの世代以降、まだない。世代の実績、実力、人気がどの世代よりもズバ抜けており、日本サッカー界に大きな影響を及ぼした。その圧倒的な存在感と功績から遠藤たちはいつしか「黄金世代」と言われるようになった。

「黄金世代」と呼ばれることは「今もうれしい」と遠藤は言う。チームメイトにはとくに意識しないという選手もいるが、遠藤の黄金世代に対する愛着は非常に深い。

「黄金世代と呼ばれることは、今もすごい誇りに思う。そう思えるほど、俺らの世代は最強なんで(笑)」

黄金世代は、日本サッカー界にどんな風を吹かせたのだろうか。

「それは引退してからわかるんじゃないかな? 俺らが引退して、協会のスタッフとか指導者になった時、やっぱりあの時代の世代はすごいなってなると思う。今もやけど、これからも胸張って言えるからね。俺らの代はどの世代よりも強いし、最強やって。貢献度で言えば、W杯に対する取り組み方やJリーグの環境も今ほどじゃなかった時代、あれだけの結果を残して、2002年日韓W杯、2006年ドイツW杯に多くのメンバーが入った事実を考えれば、実力も実績も飛びぬけていたと思う。黄金世代は日本サッカー界にいろんな貢献をしていると思うよ」

現役でプレーしている遠藤たちはもちろん、現役を引退した選手も指導者になるなど、日本サッカー界に貢献している。いずれ遠藤も引退する時がやってくるが、「今はそういう(引退する)自分が見えない」と笑う。

「今のところやめる理由がないし、やめるタイミングがわからないからね。レギュラーで出ていたらやめないし、かといってレギュラーを外されたらやめようとも思わない。まったく試合に絡めず、若い選手と圧倒的に力の差を感じたらもうそろそろかなって思うかもしれないけど、余力を残してやめることはない。なんでやれるのにやらないのって思うし、やっぱり現役がいいでしょう。楽しくサッカーができて、給料をもらえるのは最高だからね。最後は楽しんで終わりたいし、まあ、試合に出られなくなってサッカーやっていて良かったなと思えたら引退するかもしれない」

遠藤は、達観しているような表情で、そう言った。

遠藤ぐらいのレベルになれば、クラブの意向もあるが、ある意味、自分で引き際を決められるだろう。98年にプロサッカー選手になってからトップの世界で生き抜いて築きあげた実績は、日本代表国際Aマッチ出場最多記録(152試合)をはじめ、JリーグMVP(2014年)など輝かしいものだ。ナイジェリアワールドユース準優勝もそのひとつ。あれから20年、遠藤のサッカー人生は満足できるものだったのだろうか。

「十分でしょ(笑)。俺が満足していないっていったら、みんな満足できないでしょ。そりゃ悔いはあるよ。あのとき自分がミスして失点したなとか、あのとき海外に移籍しておけばよかったなあとか、アジアカップ準決勝で退場しなかったら決勝に出られたのになあとか、長くやればやるほど悔いが出てくる。でも、それを含めて幸せだということ。そういうことを感じられる環境にいたということだからね。まあケガなくやってこられて、代表でもたくさん試合に出られて、W杯に3回行って、これで幸せじゃないって言ったらみんなに殴られるでしょ(笑)」

遠藤は悔いだらけという。

しかし、長くプレーしていればミスは起こすし、嫌なこともあるだろう。いちいち気にするタイプの選手ではないと思っていたが、じつは遠藤の脳裏にはいつも「こうしておけばよかった」という後悔が渦巻いていたことを初めて知った。

「後悔するのは、勝ちたいからなんだよ。勝ちたいから、ああしておけばよかったという後悔が出てくる。そうしていたら勝てたかもしれないんでね。基本は、その後悔の繰り返し。だからサッカーやっているんじゃない? 毎回いいプレーして、バルサとかに勝って、全タイトルを取っていたらやめていたでしょう。年俸30億円もらえるならやめないけどね(笑)」

黄金世代はグループラインを通してつながっている。情報発信はもっぱら播戸竜二の役割だが、たまに数人で集まると当時の笑い話で盛り上がる。同時に必ず自分たちの準優勝を破る世代がいつ出てくるのかという話も出るという。

「たまに数人で飯食うと、そういう話になるね。俺らが出した結果は、これからも簡単には破られないんじゃないかな。上に行くには、もう優勝しかないからね。でも、俺らの世代を超える世代が早く出てきてほしい。それが出てくるのを楽しみにしてます」

新世代の台頭は簡単なことではないが、黄金世代のような世代が出てこないと日本サッカー界に再び大きな変化を起こすのは難しい。

20年間、それはなかった。今後も生まれるかどうかわからない。

だが、遠藤は黄金世代を超える新たな黄金世代の誕生、そして「こいつすげなあ」と思える選手の登場を、現役を続けながら楽しみに待っている。

(おわり)

遠藤保仁えんどう・やすひと/1980年1月24日生まれ、鹿児島県出身。ガンバ大阪所属のMF。日本代表国際Aマッチ152試合出場(歴代1位)。鹿児島実業高→横浜フリューゲルス→京都パープルサンガ

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