「スカスカになるのがJリーグ」と余裕の酒井高、精彩欠く宇佐美 明暗分かれる欧州復帰組

8月16日に夏のJリーグ移籍登録期限が締め切られ、2018年ロシアワールドカップ日本代表の酒井高徳(神戸)と宇佐美貴史(G大阪)、同最終予選で活躍した井手口陽介(G大阪)ら大物選手が日本に復帰した。

過去にも中村俊輔、清武弘嗣、内田篤人など欧州で実績を残した代表経験者の国内復帰が日本サッカー界を賑わせたことがあったが、彼らの全てがJで大活躍できたわけではない。実際、右ヒザのケガを抱える内田は、鹿島復帰2年目となる今季J1でわずか4試合の出場にとどまっている。清武も今季はコンスタントにピッチに立っているものの、帰国当初は相次ぐケガに見舞われた。「ピッチ状態や気候などの環境面に戸惑った」とも語っていて、傍目から見るほど適応は簡単ではないのだ。

今回2度目の古巣復帰を果たした宇佐美も、7月20日のJ1・名古屋戦からピッチに立っているものの、今のところゴールは名古屋戦の1点だけ。日本特有の暑さが大きな障害になっていると打ち明ける。

「気候の影響で夏場のJリーグはかなりスローなテンポになる。それはプレシーズンマッチで来日したチェルシーなんかを見てもそうでした。あれだけのフィジカルや身体能力を持つ選手たちでも思うように動けなくなるほど、日本の暑さは欧州にはないもの。僕も3年間ドイツにいたので、そこはなかなか慣れない部分です」と厳しい表情をのぞかせた。

こうした気象条件に加え、欧州で試合出場機会に恵まれなかった選手はコンディションを上げるのに苦労することになる。昨季デュッセルドルフでリーグ19試合出場1ゴールと少ないながらもピッチに立っていた宇佐美はともかく、2018年1月の欧州挑戦以来、スペインとドイツで合計リーグ12試合しか出番を得られなかった井手口の方はより大変だったに違いない。

8月10日のJ1・広島戦で帰国後初舞台を踏んだものの、運動量や体のキレの部分で見劣りする部分が多かった。さらに厳しい印象を与えたのが14日の天皇杯3回戦・法政大学戦。宮本恒靖監督から満を持してスタメン起用されたものの、全くと言っていいほど精細を欠き、前半45分間で下げられる事態に陥った。

「個人で練習をしていたとは聞いていたけど、実戦から長い間遠ざかっていたんで、感覚的に難しいのも仕方がない。少し時間がかかると思うが、試合をこなしていくしかない」と指揮官は彼を庇ったが、本人も焦燥感を募らせたに違いない。その後、18日のJ1・磐田戦、23日の同・鹿島戦に連続出場して着実にパフォーマンスを上げつつあるが、かつて日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「井手口は素晴らしい」と絶賛していた頃の状態にいち早く戻れるとは言い切れないところがある。

「欧州へ行けば成長できる」と考え、オファーを受けてすぐに新天地の扉を叩く若手日本人選手は増える一方だが、全ての選手が前向きな方向に進めるとは限らない。井手口のケースは顕著な例と言っていいかもしれない。

最初に赴いたスペイン1部のクルトゥラル・レオネサでは言葉や文化、習慣を含めて適応に苦悩。再起をかけて昨夏に移籍したドイツ2部のグロイター・フュルトでも2度の右ひざ負傷にあえぎ、長期リハビリを強いられた。不運が重なったのもあるが、ハリルジャパン時代に凄まじい輝きを放った選手が足踏み状態どころか、後退とも取られかねない現実に直面することもあり得るのだ。そういうリスクが海外挑戦にはあることを今、改めて再認識すべき時かもしれない。

逆に、欧州で7年半プレーし、ほぼコンスタントにプレーし続けてきた酒井は強烈な存在感を残している。8月14日のJ登録期限ギリギリに復帰が決まり、17日の浦和レッズ戦でさっそく、左ウイングバックのポジションでスタメン出場した彼はドイツ仕込みの球際の強さと寄せの激しさ、タフな走りとハードワークを随所に見せつけた。酒井も宇佐美同様に「日本の暑さは大きな敵」とは言っていたが、そんな環境面を跳ね除ける力強いパフォーマンスを披露した。

「久しぶりにJの試合に出て正直、球際の部分はドイツと全然違うと感じた。向こうの練習の方がJの公式戦よりプレッシャーがあるかなと。もちろんゲームは緊張感というのがプラスされてるから激しくは感じるけど、人にボールを取りに来る迫力は比べ物にならない。浦和戦で相手が3人がかりで取りに来ても、僕自身はそんなにプレッシャーは感じなかった。それに3人に囲まれても抜け出せばスカスカに空いてきちゃうのがJリーグ。ドイツの場合は1人をかわしても、2人目3人目が来ていて『うわ、全然スペースないな』と感じるから。チームとしてのプレスのかけ方がうまいんだと思う。そういうところの違いはきちんと意識しないといけない」と酒井はあえて苦言を呈したのだ。

ハンブルガーSVでキャプテンマークを巻いてドイツ・ブンデスリーガ1部残留争いを2度、昇格争いを1度経験した男の発言には説得力がある。やはり欧州復帰組ですぐにJリーグで存在感を発揮できるのは、海外クラブでどれだけコンスタントにプレーし、結果を出していたかという点が非常に大きいのだろう。

酒井の場合は日本人選手が名門のキャプテンを務めたことで、いわれのない言われないバッシングを受けたり、容赦ない批判も浴びたりしたが、そういった経験も強靭なメンタルにつながっているから、日本に戻ってきても遠慮など一切しない。アンドレス・イニエスタやダビド・ビジャ、ルーカス・ポドルスキといった世界有数のタレントを擁する神戸に加入したら少しは物怖じするところがあってもおかしくないが、彼の場合はそんなところはおくびにも出さない。そういった意識の高さも復帰したJリーグで活躍するための重要な条件と言ってもいいだろう。

今のところ明暗が分かれている今夏の欧州復帰組。だが、2013年1月から半年間ベルギー挑戦に赴いて失敗し、6年以上が経過して30歳になった今季、ブレイクしている永井謙佑(FC東京)のような例もある。今季J1で8ゴールを挙げてFC東京の首位快走の原動力になっており、久しぶりに日本代表復帰した6月のエルサルバドル戦でも2ゴールと目覚ましい活躍ぶりを見せつけている。Jに戻って思うような仕事ができていない宇佐美や井手口にしても、いつどのような軌跡を描くか分からない。彼らにいち早く永井のような時期が訪れ、再び日の丸をつけてプレーするようなレベルに到達してくれることを強く祈りたい。

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