激化するJリーグへの“青田買い”の波。小笠原満男&遠藤保仁のキャリアが示す海外だけがその道ではないワケ

早く海外に渡っておきたいという選手の気持ちは理解できるが…
海外挑戦のカタチが変わってきた。これまでは昨年末トゥールーズに移籍した昌子源のようにJリーグや日本代表で活躍して海外に行くのが一般的であった。ACLのタイトルと300万ユーロ(約3億5000万円)と報じられた移籍金を置き土産にした昌子の海外挑戦は、まさに理想形だと言えた。26歳での移籍はちょっと遅かったのも事実ではあるが。

しかし今夏、20歳前後のタレントの海外移籍が相次いだ。東京五輪世代で括っても、久保建英、安部裕葵、三好康児、中村敬斗、前田大然、菅原由勢、食野亮太郎ら予想以上の多さである。「青田買い」の波がアジアにも本格的にやってきたわけだ。

欧州でのステップアップを考えるなら、なるべく早く海外に渡っておきたいという選手サイドの気持ちは理解できる。おそらくこの流れは続くだろうし、食い止められるものでもない。違約金の設定を高くすれば歯止めになるかもしれないが、欧州でのプレーを熱望する選手の想いに歯止めはなかなか掛けられない。もちろん彼らが欧州でステップアップするなら、日本サッカーの発展につながるはず。ジャッジするなら迷うことなく「是」と答えたい。

ただ、海外で成功する選手が増えていかないと日本サッカーが発展しないということではまったくない。先月、日本人初となる公式戦1000試合出場を達成した遠藤保仁はJリーグひと筋だ。日本代表で歴代トップの152キャップを誇り、代表チームの中心として長らく働いてきた。日本でも成長はできる。

「失敗」を「成功」に変えてあげればいい
一方、海外にチャレンジして活躍できなくても、「失敗」を「成功」に変えてあげればいいだけのこと。

たとえば小笠原満男。鹿島の大黒柱であった彼は2006年のドイツ・ワールドカップ後にセリエAのメッシーナに移籍したが、1年通してリーグ戦は6試合の出場。ベンチメンバーに入ることすらままならなかった。

彼にメッシーナ時代の話を聞いたことがある。

「単純に言ったら、試合に出られなかった1年。でも自分のなかでは収穫があって、毎日が凄く充実していた。アントラーズではほぼ毎試合のように使ってもらっていたけど、向こうに行ったら“誰だ、このアジア人は?”という目で見てくるし、紅白戦にすら出られないことがあった。チキショーって思いましたよ。ぜってえ、コイツらには負けねえって。そういう想いで練習したのが新鮮で、それってアントラーズに入った当時の、ポジションを奪いたいっていう気持ちとか子どものころの上手くなりたいっていう気持ちに似ていました」

彼が腐ることはなかった。イタリアでの日々が成長をもたらした。鹿島に復帰後、チームは史上初のリーグ3連覇を成し遂げ、2009年には30歳でMVPに輝いた。イタリア仕込みの激しい守備が、小笠原の新たな武器となったのは言うまでもない。

今夏、宇佐美貴史、井手口陽介が欧州から古巣のガンバ大阪に戻ってきた。現時点において海外で活躍できなかったのは確かだが、異国の地で得たものをこれから発揮すれば良いだけの話。成長にはいろんなルートがあるのだから。

挑戦に向かう気持ちは尊重してあげたい。しかしながら海外に行くことだけがその道ではないことも提示したい。そのためにはJリーグが海外に負けないだけの魅力を生み出していかなければならない。

そしてもうひとつ、海外で長くプレーする実績のある選手を日本に呼び戻す流れも作りたい。長谷部誠や本田圭佑らが「もう一度日本でやってみたい」と思えるようにならなければならない。これもチャレンジだ。

選手もクラブも前向きに挑戦していく姿勢こそが、日本サッカーの発展を呼び込む、なによりの要素なのではないだろうか。

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