【G大阪】怒鳴る宮本監督に、冷めたチーム状況…低迷の19年を担当記者が見た

今シーズンもJ1残留争いに巻き込まれ、タイトルと縁のないまま2019年を終えたG大阪。昨季途中に就任した宮本恒靖監督(42)にとっては、キャンプから指揮を執る初めてのシーズンとなったが、天皇杯では3回戦で大学生に敗れ、ルヴァン杯もベスト4敗退。タイトルを夢を見ることすらできなかった、苦しい1年となった。その理由を、G大阪担当の金川誉記者が「見た」。

2019年の最後に、改めてG大阪の今シーズンを振り返ってみた。リーグ戦は最終的に終盤の3連勝などで7位まで浮上したが、大半をJ1残留争いで過ごした苦難の連続。2年連続で残留争いに巻き込まれた理由は、決して一つではない。

まずはシーズン序盤のつまずきが痛かった。昨季終盤に9連勝したことで、宮本監督は今季はその布陣をベースに、新戦力の韓国代表DFキム・ヨングォンをセンターバックに加えた4―4―2でスタートした。個々の技術の高さとハードワークをベースに、韓国代表FWファン・ウィジョとFWアデミウソンという強力な個を持った2トップを生かすスタイルの継続を狙った。だがいくつかの誤算があり、チームは機能しなかった。昨季のキーマンだった元日本代表MF今野が、コンディション不良のために調子が上がらず。さらに1月のアジア杯に出場してチーム合流が遅れたDF三浦、キム・ヨングォンのセンターバック・コンビが、フィットするのにも時間を要した。

第5節の神戸戦から7試合勝利なし(2分け5敗)と、チームはどん底に沈んだ。しかし第12節、C大阪との“大阪ダービー”で3バックに変更して勝利をつかむと、チームは復調の兆しをみせた。格上相手には5バックで割り切った守備もみせ、引き分けでも勝ち点を拾えるようにはなった。しかしそんな時期、迎えた夏の移籍マーケットでエースのファン・ウィジョや伸び盛りの食野や中村ら、選手が大量流出。せっかく連動し始めたものもゼロに戻ると、得点源としてドイツから復帰したFW宇佐美の調子も上がらずにチームは低空飛行に。終盤になって宇佐美が調子を上げ、レギュラー陣もやっと固定されたことでユニットごとのコンビネーションも熟成。終盤の5試合は4勝1敗と浮上した、というのがシンプルに振り返る今シーズンだ。

しかし中身は複雑極まりない。まずはピッチ上の問題点。開幕直後、宮本監督がキャンプからチームの武器として植え付けようと取り組んできた2トップのスピードを生かす速い攻めの志向は、なかなか浸透しなかった。指揮官は「キャンプから速い攻めを少し意識してきた中で、そこで(開幕戦の)マリノスの試合も(第3節)名古屋の試合も、ヤット(遠藤)ら中盤の良さがでなかった」と語っていた。長年チームのアイデンティティーを担う遠藤は、縦に攻め急ぐスタイルの中で持ち味が発揮されず、先発から外れる試合も増えた。しかしシーズン終盤には宇佐美の調子が戻り最前線でためができるようになると、先発を奪い返した遠藤を中心とした中盤との連動が増加。サイド、中央と使い分けるスムーズな攻撃が発揮できるようになった。来季は終盤の好調を持ち越せなかった今季の反省を生かし、指揮官がキャンプからどんなコンセプトを打ち立て、どんな準備を進めていくかは大きな課題のひとつだ。

そしてもう一つは、ピッチ外の問題だ。シーズン終了後、関西ローカルでG大阪を特集する番組「ガンバTV」でロッカールームの映像が公開されたが、驚いたサポーターも多かったはず。宮本監督が選手たちに声を荒げるシーンが何度も映し出されていた。ロッカーに立ち入ることができない私もその映像を見て驚いたのだが、改めて引っ掛かったのは当時のチームの空気だ。あれだけ監督が怒鳴っていたのに、当時のチームにはどこか冷めたような空気が流れていると感じていた。

決して選手たちは危機感を持っていないわけではなかった。9節の仙台戦。相手シュートをDF三浦が頭でブロックしようとしたが、そのままコースが変わってゴールイン。ハーフタイムにはGK東口が激怒し、三浦も応戦する、という場面があった。あの映像だけをみれば、東口がただ味方のミスをとがめたようにも映ったが、彼は対話の少ないチームを常に懸念していた一人だ。何とかチームを変えたいともどかしい思いを抱えていた守護神が、あえてチームの空気を変えるために悪役となったようにも見えた。他にもMF倉田ら、問題点を肌で感じ、何とかしなければと、もがいていた選手はいた。

熱量の少なさ。これはG大阪が近年抱える大きな問題だ。宮本監督はそんなチームを変えようとアプローチしていたはずだが、その言葉は十分には届いていなかった。外部からすべてをはかり知ることはできないが、選手と年齢の近い若手監督としての特性を生かして対話を増やせば、もっと伝わる言葉はあったのではないかと感じる。一方で選手たちも問題点を感じながらも、自らチームを変えようと積極的に動いた選手が決して多くはなかった。

監督や選手だけではなく、クラブのマネジメントもチームを冷めさせた要因のひとつだ。夏には元日本代表MF今野ら14年の3冠に貢献した功労者が、急激な世代交代の波に追われるようにチームを去った。選手たちは「あれだけチームに貢献した選手が、こんな形でチームを出ていかないといけないのか…」と感じ、自身のすべてをこのチームのために燃やし尽くす、という空気がそがれたように映った。人と人の結びつきの強さという、チームが一つになるために最も必要な部分が、どこかおろそかになっているように感じた。

低迷の責任は、G大阪に関わる全てにある。オフの補強状況を見ても、タイトルからもACLからも遠ざかる近年は、かつてのように欲しい選手を次々と補強できるような時代ではなくなった。かつてG大阪でキャプテンを務め、今シーズン限りでJ3長野で現役を引退した元日本代表MF明神は「G大阪はタイトルを取れなかったすべてのシーズンが失敗。そういうクラブなんです」と語っていたが、今やそんな火は消えつつある。もう一度、G大阪が西の名門として復活するため、クラブも監督も選手たちも、プライドをかなぐり捨てたチャレンジが必要な時期を迎えている。

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