ガンバ大阪・遠藤保仁、40歳でも「先発出場」を続けられる理由

「1」と「631」を結ぶ不思議な縁
偉大な記録に並んでも試合後の取材エリアは、いつもと同じ光景だった。

2020年のJリーグ開幕戦。2月23日、ガンバ大阪はアウェーの日産スタジアムで王者の横浜F・マリノスと対戦して2-1で勝利した。今年1月で40歳を迎えた遠藤保仁は先発フル出場を果たし、白星発進に貢献している。

開幕戦の連続先発を「21」に更新したことも凄いが、この日で楢崎正剛の持つJ1最多出場記録「631」に並んだ。いつもと同じように多くのメディアに囲まれ、いつもと同じように落ち着いた表情と、淡々とした語り口であった。

「選手である以上、先発で試合に出たいとは思っています。それは何歳になっても変わらないですね」

スタートからピッチに立ち、チームのために働き、そして勝つ。

22年前、鹿児島実業高から横浜フリューゲルス入りした彼は、いきなり開幕戦の“横浜ダービー”で先発デビューを果たした。あの日も日産スタジアム(当時は横浜国際総合競技場)が舞台。スコアもこの日と同じ2-1の勝利であった。

「1」と「631」を結ぶ不思議な縁に、本人も「第一歩を踏み出せた場所。巡り合わせがいいのか……」とちょっぴり表情を崩した。

もし試合でいい働きができなかったら、勝利に結びつけられなかったら、先発の座はきっと安定しない。

彼はフリューゲルスでも京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)でも、日本代表でも、そして2001年に移籍して20年目に入るこのガンバでもそれはずっと変わらないスタンスだ。

譲れない先発へのこだわり
その意味で昨シーズンはひとつの「危機」だったと言えるのかもしれない。

試合に出ないことがニュースになる人。2017年4月30日のF・マリノス戦ではベンチ入りしながらも出番がなかったことが「19年ぶり」だとニュースに取り上げられている。

それほどの絶対的な存在が、2019年5月18日のホーム、セレッソ大阪戦から控えに回ることが増えていく。「ベンチにいるヤット」は普通の光景になってしまった。

長年にわたって先発で出てきたベテランがあまり使われないようになってしまうと、ガタッとパフォーマンスが落ちてしまうケースもある。モチベーションはあっても、不規則な出場機会が続くことで少なからずともコンディション調整に影響が出てくる。

ボランチを主戦場とする遠藤は元々「先発完投型」。途中から出て流れを変える、または落ち着かせる役割よりも、彼はやはり先発に返り咲くことにこだわった。

練習のなかで自分の力を証明していけば、きっとチャンスはめぐってくる。しかしケガをして練習から抜けてしまっては意味がない。昨シーズン、全体練習から離れたのは打撲で外れた1度だけだったという。

元々、小さいケガがあっても意に介さないタイプであり、離脱すること自体が極端に少ない。ケガに強いと言える一方で〝予防〟にも長けている。

ヤット流「ケガとの付き合い方」
彼は以前こんなことを語っている。

「小さなケガは誰にでもあるし“ケガは友達”ってよく言っています。試合をやりながら治していく感じなんですかね。だけど(ケガで)今8割しか出せないのに、無理して10割を出そうとしたらひどくなる。その8割が今の10割だと僕は考えます。

“ここまでしかやれません”と監督に理解してもらったうえで、(起用するかどうかは)監督が決めてくださいというスタンス。ありがたいことに大きなケガで休んだことってほとんどない。それさえなければ、まだまだやれる自信はありますから」

ケガのリスクがある無茶はしないが、可能な限りの無理はする。試合に出るように準備しておいたのに出ないとなると、どこかで調整が必要になってくる。練習のなかで「極力マックスまで力を出すこと」を意識したそうだ。

「去年の話で言えば(先発で出られないことで)コンディションを維持する難しさは分かったし、試合に出られない選手の気持ちというのもよく分かった。いろんな意味でいい勉強になったな、と。いつ出番が来てもいいようにと、準備はできていました」

リーグ戦終盤に入ると再び先発で出場するようになり、最終節までの3連勝は彼の存在も大きかった。バランスを見つつ、試合の流れを読みつつ、効果的なプレーを選択して勝利に近づけていく。

出場機会が減っていた状況を己の手で食い止め、逆に覆していく。それを39歳でやってのけたという意味は大きい。

しかしながら本人は年齢でくくることをしない。

大記録も通過点にすぎない
「フィールドは平等。別に若手がチームを引っ張ったっていい。逆に若手だからもっと頑張れというつもりもないです」

彼のなかに「若手だから」「ベテランだから」はない。答えはシンプルで、力のある者が試合に出ることができるという考え方だ。

「自分のパフォーマンスを上げるために日々の努力は欠かせません。優勝したいとか大きな目標はありますけど、まずは試合に出るためにはチームメイトに負けないようにしないといけない。毎週のようにやってくる試合で、最高のパフォーマンスを出していくという努力は1年通して欠かさずやっていかなきゃいけないこと」

監督が求めているものを理解し、吸収しながら自分を出していく。ケガなく、波のないパフォーマンスを続けていけば、それが信頼となり、試合に出続けることにつながる。

2020年シーズン開幕戦における遠藤のパフォーマンスは「さすが」の一言に尽きる。

守備では相手のスペースを消し、ときに激しくつぶしに行き、攻撃では逆に空いているスペースにパスを送り、ときに力強く前に押し出していく。押す、引くの絶妙なかじ取りが、王者から勝ち点3をもぎ取った要因であった。

試合後の会見で宮本恒靖監督は、遠藤についてこう述べている。

「ヤットがピッチにいるということで落ち着くところがあると思います。彼なりにしっかりと試合を締めてくれたし、経験でうまく進めてくれた」

信頼をひとつずつ積み上げ、次へのチャンスをつかむ。

過去の631試合は彼にとってもはやあまり関係ないのかもしれない。見ているのは、目の前にある試合。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月15日までの試合が延期になる。記録更新となる再開後の試合も、彼にとっては通過点に過ぎない。

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