なぜガンバU-23は機能不全だったか。宮本恒靖監督「選手が揃わない」

ガンバ大阪U-23がJ3リーグの全日程を終えた。

32試合7勝5分20敗、31得点、65失点で16位。開幕から5連敗を喫し、初勝利を挙げたのは6試合目。8月末からは8連敗を喫するなどドン底の1年間だった。今シーズン、新しいステージでのかじ取りを任された宮本恒靖監督にとっては不本意な成績だろうが、2017年シーズンの戦いをどう感じたのだろうか。

「いろんな意味で難しいシーズンだったと思います」

宮本監督は厳しい表情で、そう言った。

その表情は、1年間をやり切ったというよりも、思うようにできなかったことへの悔しさがにじみ出ていた。

では、いったいどういう部分に難しさを感じていたのだろうか。

「選手がなかなか揃わなかった。クラブは育成をテーマにスタートし、自分はプラス結果を求めてやってきたんですが、シーズン当初は高校を出たばかりの選手やユースの選手がJ3のスピードやパワーに戸惑ったりして、なかなか難しかった」

J3といえども、SC相模原のようなチームにはJ1、J2経験者がおり、肉体的にも完成した選手が多い。ユース上がりや高校上がりの選手がそういう選手と対峙した時、どうなるかは容易に想像がつく。それは成績にもはっきりと表れている。特に開幕から5試合はすべて完封負けで、1点も取れなかった。J3のレベルに全くついていけなかったのだ。

徐々にJ3のレベルに適応する選手も現れ始めたが。

 「ただ、夏ぐらいから個々に成長が見られるようになり、それが試合にも出るようになった。それが自信になってシーズン終盤は負けなくなったし、連勝もできた。チーム全体としてシーズン当初は球際で負けていたけど、今は負けずにやれるようになった。これはポジティブにとらえていますし、あと10試合ぐらいあれば、もっといいサッカーが見れたと思います」

シーズン終盤にはJ3レベルのスピードやフィジカルに慣れて、若い選手も良いパフォーマンスを発揮できるようになった。SC相模原戦で2ゴールを挙げた一美和成も、相手の守備に負けない強さと巧さが出てきた。森勇人もYS横浜戦で1ゴール2アシストで勝利に貢献するなど、存在感を発揮する選手は登場しだした。

ユースとトップチーム双方に選手をとられ……。

 ただ個として目立つ選手はポツリポツリ出てきても、チームとしては、やはり寄せ集め感が否めない。宮本監督は「セカンドチームなので、選手のやりくりは簡単じゃなかった」とチーム編成のむずかしさを吐露したが、ベンチメンバーは18名ではなく16名で、サブはほとんどがユースの選手だった。

彼らはユースが主戦場なので、U-23チームにいつもいるわけではない。たとえば、ある試合で課題が見つかったら普通のチームは翌週に向けてその課題をクリアするための練習をするものだが、U-23の場合は選手がユースに戻ったり、主力選手をトップに抜かれたりと、同じメンバーで継続性を持ってチームを進化させていくことが難しいのだ。

こうした状況になったのは、クラブの運営方法にも理由があった。

今年ガンバは、トップとU-23を完全に分離して活動させてきた。練習時間もトップは午前中、U-23は午後と振り分け、チーム間での交流がなくなってしまった。

トップは怪我人が出れば当然U-23から選手を引き抜くし、トップでの試合出場の有無にかかわらず、U-23起用に制限をかけた。

たとえば中原彰吾は20節までU-23の主力でプレーし、中心選手として機能していた。

だが21節からトップに上がり、それ以降は試合出場の有無にかかわらず、U-23ではプレーしていない。トップで試合に出なかった選手がU-23でプレーできればいいのだが、それが可能ではなかったのだ。

宮本「自分のキャパは確実に広がったかなと」

 これでは逆に選手の成長の妨げになり、チームを良くしていくことはもちろん、継続的にチーム創りをしていくことは難しい。

「そういう経験も、自分のキャリアにプラスにするようにしている」

宮本監督は、そう言った。

一昨年は、U-12を指導した。昨年はU-18の監督になった。そして今年、U-23の監督としてJ3を戦った。厳しい状況下での指揮は彼のキャリアに、どうプラスになったのか。

「少人数でどうやって練習し、どう鍛えていくのか。今いる選手でスタメンを編成し、どう力を発揮させるかとか、なかなか経験できないいろんな取組ができた。同じメンバーで戦えないとか、1年間ストレスを感じることがあったけど、自分のキャパは確実に広がったかなと思います」

監督の立場で、どんな言葉を使うかという経験。

 収穫のひとつは、言葉の使い方だろう。

もともと宮本は日本代表のキャプテンで話術に長けており、いろんな監督と話をしてきただけに、引出は豊富に持っている。それを今度は監督の立場でどう選手に伝え、チームの変化につなげられるか。状況を打開する必要があるハーフタイムに、言葉の力が発揮された試合もある。

たとえば、YS横浜戦。先制して追いつかれた後、相手に押しこまれて一方的な試合展開になった。業を煮やした宮本監督は、ハーフタイムで選手にこう指示した。

「2トップにボールが入るとうまくいっている。そこにボールを入れてサポートを早くして前に出ていこう。インサイドハーフの選手がボールを持っている時は、それを追い越すなり、前への推進力を出していこう。守備はバイタルに下りてくる選手に3バックの中央の選手がチャレンジしよう」

すると後半、右サイドで追い越す動きがみられるようになり、守備では3バックの中央のぺスヨンが相手にチャージするようになった。そうして、チームに動きが出て、逆転劇につながり、シーズン初の連勝につながった。

最終戦でも「最終戦、0-2で負けていいのか」と選手にハッパをかけ、後半は風上に立つことを生かしてプレスからボールを奪い早く攻めることを意識させた。さらに芝本蓮を入れてボランチの展開力を生かしつつ、郡の1トップ、一美、森の2シャドーでサイドの深いところに侵入していく戦術的な指示をした。それが功を奏し、後半15分から5分間で2点を取り、相手に追いついたのだ。

監督のビジョンを選手が理解し、ピッチで表現し、結果を出したのである。

強化の場として有効活用できる方策を。

 「今いる選手でどうやって流れを変えていくか。この試合(相模原戦)のようにハーフタイムの指示で選手を変えることができたのは収穫の1つだと思います」

宮本監督は、少し胸を張ってそう言った。

今シーズン、U-23はなかなか出場機会を得られない23歳以下の選手の強化育成の場としてチームが立ち上がったが、実際にはなかなか思うような強化と結果を得られなかった。来季のために課題を整理し、強化の場として機能させために宮本監督のフィードバックをどのくらい活かせるか。

トップの再生同様、クラブは危機感を持って取り組むべきだろう。

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