新指揮官レヴィー・クルピを緊急直撃!「ガンバ大阪は本当に生まれ変われるのか?」
5年間続いた長谷川前政権が終焉を迎え、新たなターンへと舵を切ったガンバ大阪。命運を託すべく新指揮官に招聘したのは、エリアライバルのセレッソ大阪で名声を築いた智将、レヴィー・クルピ氏だ。
現在64歳のブラジル人監督は、なぜ青黒軍団のオファーを受け、4年ぶりの再来日を決めたのか。昨シーズンのガンバの戦いぶりをどう捉え、現有戦力のレベル、補強の必要性、そして目ざすべきスタイルをどのように見据えているのか。ふたたび大阪の地を踏んだ翌日、『サッカーダイジェスト』の単独取材に応じてくれた。
時折ジョークを交えながら、真摯に一つひとつの質問に答える。通訳を担当してくれるのはもちろん、相棒の“ガンジー”白沢敬典さんだ。
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──およそ4年ぶりの日本、そして大阪はいかがですか?
「大阪のことは本当に懐かしく思っていたので、戻ってこられて本当に嬉しいよ。大阪は世界でいちばん美しい街じゃないかな。そして日本は世界に誇れる、すべてにおいて見本になれる国。またさまざまなことを学べる機会を得られて、ありがたいと思っている」
──ガンバからのオファーを受けて、率直にどう感じましたか?
「いろんな想いが蘇ったよ。ブラジルはいま、政治の腐敗が酷くて、国民は失望している。国自体に元気がないんだ。そんななかでこういうオファーを素晴らしい国からもらった。ブラジルより暮らしやすいし、なにより社会格差が少なく、誰もが互いをリスペクトし合い、教育のレベルも素晴らしい。そういうところで指揮を執れるのは、やはり自分の人生にとって大事なこと。そしてブラジルとは違って、日本は私の仕事をしっかり評価してくれる国でもある。いろんな意味で、コンタクトがあって嬉しかった」
──2013年の年末に日本を去る際、「次に戻ってくるときはガンバの監督としてだ」と話していました。まさかの展開です。
「ハハハ、冗談が現実になったね。まあ私のようなカッコいい監督が来たんだ。間違いなく女性サポーターが倍増すると思う。少なくとも我が家ではガンバサポーターが増えた。奥さんと娘がね。だからこれから確実に増えていくと思うよ(笑)」
──かつてセレッソを率いていた頃、対戦相手としてのガンバをどう見ていたのでしょう。
「毎年毎年、しっかり予算をかけて補強している。そして常にタイトル争いをしている。優勝、タイトルを欲する気持ちが伝わってくるクラブだった。昨シーズンはセレッソがふたつのタイトル(ルヴァンカップと天皇杯)を獲って好調のようだけど、2018年はかならずやガンバの年にしたい」
──クラブから昨シーズンのゲーム映像を送ってもらったと聞きました。どれくらい分析し、どの程度チームを把握していますか?
「もちろん何試合か観たし、いい選手が揃っているなという印象は持った。ただ、実際に自分の眼で見ないことには始まらない。一人ひとりの力量を見極めながら、過去を振り返らないでしっかり前を向いて戦っていきたい。ただ昨シーズンは、安定感がなかったね。とくに(長谷川健太)監督が契約を更新しないと決まってからの最後の10試合くらいは、成績がガクンと下がってしまった。言うなればナチュラルな部分。いろんな要素が絡むから一概には言えないが、選手たちも難しかったのだと思う。去年失ったものがあるとすれば、今年は一年かけて、それを取り戻せばいいんだ。チームがひとつになって一体感を持つことが重要。あと、ガンバの魅力として挙げられるのが、熱狂的なサポーターだ。サポーターがいないサッカーは、自分の妹とダンスをするようなもの。なんにも面白くない! 常にスタジアムに来て、我々をサポートしてほしい」
──パナソニック・スタジアム吹田は初めてご覧になられたと思います。
「ああ、最高のスタジアムだよ。それだけじゃなく、このガンバというクラブは環境がすべて整っている。自分はしっかりチーム作りに集中したいと思う」
──セレッソではソリッドな守備をベースとしながらも、個を前面に押し出したアグレッシブなスタイルを貫きました。一方、昨年10月まで率いたサントスでは、どちらかと言えば堅守速攻が持ち味のリアクションスタイルを徹底していた印象です。はたしてガンバではどんなサッカーを目ざすのでしょうか。
「ガンバはJ1で優勝しなければならないチームであって、実際に達成できると確信している。勝利を目ざすためには、やはりオフェンシブにならなければならない。優勝するチームというのは、最後まで攻めの姿勢を貫くものだからね。ただ、だからと言って守備を疎かにしていいわけではない。サッカーにはふたつの局面しかないんだ。攻撃か、守備か。その両方をしっかりやらなければ、勝利は掴めない。みんながゴールを見たいし、勝利を祝いたいからスタジアムに足を運ぶのだろう。私もオフェンシブなスタイルが好きだよ。肝心なのはバランスだ」
──タイトルを獲るために、攻撃の陣容は万全でしょうか? とくに前線の陣容が心もとない。アデミウソン選手はいまだ怪我(グロインペイン症候群)に苦しんでおり、開幕戦に間に合うかも微妙な情勢です。今オフの補強に関して、強化サイドに自身の希望は伝えなかったのですか?
「特にはしなかった。まだ選手たちを見る前だったからね。リクエストは出していない。あまり目立たなかった選手が、監督が代わったことで急に芽を出すかもしれないじゃないか。いまいる選手たちの見極めが第一だ」
──では、3月末の移籍期限リミットまでに、もし欲しい人材がいればリクエストを出すかもしれないと?
「それはあり得る。必要と感じるならそうするだろう」
──本当はどうしても連れてきたい秘蔵っ子などがいたのではないですか?
「カガワ・シンジだな、それは。いやいや冗談だ、真に受けないでくれ。また問題発言になってしまうからな(笑)」
──クルピ監督はセレッソでその香川真司選手や乾貴士選手、柿谷曜一朗選手、清武弘嗣選手といったヤングタレントを積極登用し、才能を開花させました。その印象が強いせいか、日本では若手育成に定評があると見られがちですが、実際のところはどうなのでしょう?
「なかなか説明が難しい。偶然という側面があるし、セレッソでは能力の高い若い選手に巡り合えてラッキーだったと思っている。個人的な考え方はシンプルでね。いい選手を使う、ただそれだけだよ。大事なのはクオリティー。チームに貢献できる選手なら、それこそ年齢なんて関係ない。才能が絶対だ。それをピッチ上で表現できるならばね」
──今季のメンバーだと、最年長は遠藤保仁選手の37歳で、最年少は谷晃生選手と中村敬斗選手がともに17歳です。彼らを含めて保有戦力全員を、まずは横一線で見定めると?
「もちろんそうだ。年齢を重ねたベテランであっても、入団したばかりの若者であっても、ピッチで結果を出す選手がすべてだと考えている。最近もこんなケースがあったよ。昨シーズンのサントスに、リカルド・オリベイラという選手がいた。38歳なんだが、目覚ましい活躍を見せたんだ。彼はこのプレシーズンに、請われてアトレチコ・ミネイロへ移籍していったよ。サッカーとはそういうもの。年齢は関係ない」
──J3を戦うU-23チームについてはどう捉えていますか。
「まだ明確な回答はできない。ただ、選手をどう見るかについての基本的な考え方は同じだ。ふたつのチームを上手く活用しながら、その選手が貢献しているなら、上(トップチーム)でもプレーさせたいと考えている」
──ガンバのアカデミー(下部組織)についても強い関心を持たれているそうですね。
「そうなんだ。以前いた頃から、ガンバの育成機関は素晴らしいとよく聞いていた。アカデミーのスタッフともいい連携を保っていきたいと考えているし、意見交換をしながら、可能なかぎり練習なども見ていきたい。私自身、それは監督としての使命だと思っている。無理強いされるものではなく、喜びを感じながら出てくる自然の行動なんだ」
──ブラジルでは実に23のクラブで指揮を執りました。なかにはクルゼイロとアトレチコ・ミネイロ、サントスとパルメイラスなど、ガンバとセレッソの比ではない強力なライバル関係にある2クラブを行き来しましたが、やりにくさは感じなかったのですか?
「ブラジルでは、やはり日本より難しい側面が多々ある。国民がちゃんと教育されていないから、そういったニュースが流れることで注目を浴び、大きな刺激となってしまいがちだ。国内の統制がまるで取れていないし、それはサッカー界も同じ。年明けにチームが始動してから1週間で州選手権が始まり、開幕2連敗を喫した監督がもうクビを切られているよ。本当に慌ただしい世界でね。たしかにセレッソはガンバの一番のライバルだが、この国でなら、大きな問題は感じない。ガンバでも新しい友だちができると信じているし、サポーターとの距離も縮めていけるはず。新しいチャレンジを楽しみたいと思う」
──ところでクルピ監督は、現在のJリーグの問題点はどこにあると考えていますか?
「さほど気になるところはない。技術的なレベルは上がっているし、若い選手たちがどんどん海外に行っているしね。ただ、これが多くなりすぎると、当然ながら国内リーグのレベルは下がってしまう。ブラジルがずっと直面している問題でもある。17、18歳で行ってしまうわけだけど、それを補う若い才能にどんどん台頭してもらうしか解決策はないんだ。日本もそうなってほしい。カガワ・シンジやカキタニ・ヨウイチロウのように羽ばたける選手が、ガンバにも現れると信じているし、大いに期待している」
──セレッソ時代に1年間薫陶を受けた倉田秋選手は、「息子のように接してくれた、愛情あふれる監督」と話していましたよ。
「本当か!? それを聞けてすごく嬉しい。無理をしてそうしているわけではなく、すべては自然の行動だ。こういう性格で生まれきたことを、神に感謝しなければならない」
──宮本恒靖さんが昨年に引き続きU-23の監督を務め、今季はトップチームのコーチも担当します。金曜日に初めてのスタッフミーティングで話されたと思いますが、どんな印象を受けましたか?
「実に誠実で、最高の指導者だと感じたよ。なにも言うことはないね。ただ、スタッフの人数が多くて驚いて、思わず写真を撮ってしまったよ。私の契約が満了するまでに、顔と名前が一致するか心配だ(笑)」
──選手の数は38名にのぼります。
「まあ、ブラジルではさほど珍しい数字ではない。試合数が多いし、サントスでも同じくらいの人数だったよ。スタッフ間で上手く連携できるはずだし、まったく気にしていない」
──ところで、今シーズンのJ1で気になるクラブはありますか。
「どこもいい補強をしているけど、とくに名古屋がね。ジョーのような選手が来るのだから、最高の補強をしたと言うほかない。しっかり投資をしているよ」
──今日は時差ボケが残るなか、ありがとうございました。最後に今季の目標と意気込みを聞かせてください。
「クラブのスローガンが『奪還』。つまりはタイトルを獲る、奪いにいくということだ。そのために私は全力を尽くすと約束するし、サポーターのみなさんに歓喜をお届けしよう。ぜひともスタジアムに駆け付け、我々をサポートしてもらいたい。ヨロシク、オネガイシマス!」