ガンバ大阪、強化のエキスパートが明かす「クルピ招聘の狙いと補強のこれから」

「来シーズンを考えた場合、決断しなければいけなかった」

 1月22日にキャンプ地である沖縄に到着し、いよいよ本格始動した新生・ガンバ大阪。過去2シーズンは無冠に終わった。クラブスローガンを『奪還』と定め、レヴィー・クルピ新監督の下で捲土重来を期す。

変化はピッチ内にとどまらない。吹田スタジアムは命名権が売却され、今季から「パナソニックスタジアム吹田」に生まれ変わる。クラブ内部の組織もいくつか刷新された。なかでも注目は強化部とアカデミー部の一本化で、トップ&U-23チームと並行して、下部組織の抜本的な改革にも着手する。

強化の陣頭指揮を執るのが、梶居勝志・強化アカデミー部長である。鹿児島実高、大阪商大を経て松下電器に入社し、ガンバでもFWでプレーしたOB。1995年からチーム強化に携わり、2012年以降は強化部門のトップを務める生き字引だ。

はたして、クルピ政権への移行はどのような経緯でなされたのか。今冬の補強オペレーションへの満足度やアカデミー改革の詳細などを問いつつ、さまざまな質問をぶつけてみた。

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──5シーズンに渡って長期政権を築いた長谷川健太監督が契約満了となり、ガンバは新たな指揮官を迎えました。去年のいつ頃からアクションを起こしたのですか?

「夏です。昨シーズンは例年より良いスタートを切れたんですが、夏まで見てるなかで、内容はどうなのかなと正直感じていた部分がありました。(シーズン終了後に)長谷川(健太)監督の契約が切れるタイミングでしたし、来シーズンをどうするのかを考えた場合、決断しなければいけない。5年という長い期間を見てもらって、我々が当初狙いとしていたところは十分に強化してもらえた」

──長谷川前監督の就任は、J2降格を受けた2013年でした。

「総得点が1位(67得点)なのに、総失点がワースト2位(65失点)で降格した。まずなにを置いても手を打つべきだったのはディフェンスの構築で、そこからスタートしてほしいとお願いした。ただそこが成果を上げて以降、プラスアルファのところで上積みを期待していたのですが、なかなか難しかった。選手の編成や選手層にもよるのでしょうが、相手にも分析されてしまって。昔やってたようなイマジネーション溢れるサッカー、ピッチ上で選手たちが自分たちで考えて選択肢を持っていくような形が少なくなっていた」

「日本人の指導者でと考えたが、上手くハマらなかった」

──では9月頃には人選に入っていたと?

「もう少し前ですね。8月中には候補者リストを作って、9月には行動を起こしていましたから」

──新指揮官のリクルーティングはどのように進められたのでしょうか。やはり攻撃的なスタイルへの再転換を図る上で、最適な人物を探した?

「リストの名前を挙げていくなかで、できれば日本人の指導者でと考えたが、上手くハマらなかった。それこそ森保(一/現・U-21日本代表監督)さんもフリーだったし、いろんな選択肢を探りながらでしたね。やはり前提として、攻撃的なサッカーを追求してほしい。それを実現させるために選手を育ててきたし、外からも選手を獲得してきた流れがある。簡単にスタイルと言いますが、指導者によってチーム作りは変わってくる。同じ駒でも指導者によってまったく変わるものです。既存の選手を中心に変えられる監督が最適と考え、最終的にレヴィーにお願いしたわけです」

──ほかに当たってダメだった候補者はいましたか?

「ないですね。レヴィーが優先順位の第1位でしたから。正式なオファーは10月に入ってから出しました。まだサントスで指揮を執っていて、リベルタドーレス杯の出場権を得られる2位か3位に食い込んでいて、チームは好調でした。あちらも契約延長の話をするだろうなと思っていたのですが、残り数試合のところでサンパウロとのアウェー戦で敗れてしまい、途中解約になったんです。どっちに転んでもほぼこちらに、という話ではあったんですけど、あれは少し驚きましたね」

──どうやって口説き落としたのですか?

「我々(ガンバ)はこの2年、タイトルを獲れていない。チームとしても顔ぶれを見ても優勝争いをしなければいけないと思っている。お客さんから見ても魅力を失いつつあるなかで、チームを立て直してもらえないか。といった感じです。やはり隣のクラブで指揮を執っていた方ですから、ガンバに対してはしっかりしたイメージを持っていました。そのうえで、また日本でやりたいという想いを強く感じました。本人はセレッソで長くやっていたし、考えるところは多少なりあったと思うけれども、やはり日本でやり残したことがあると感じていたようです。日本で一度もタイトルを獲れなかったことをすごく悔やんでいて、すごくこだわっている。とくに『Jリーグを獲りたいんだ!』という強い意思が伝わってきましたね。そこで、お互いの考えが一致した。U-23というチームがあり、若手に試合経験を積ませる場を与えたくてJ3に参戦しているんだと説明して、そこもちゃんと賛同してくれましたよ」

「トップと完全に分けたのは失敗だったと感じています」

──戦力補強についての意見は聞き入れなかったのでしょうか。

「ほぼない。既存の選手と新たな選手を加えた編成を逐一伝えながら、交渉を進めました。そうして擦り合わせはしたし、チームの映像も送ってはあったんですけど、やはりそこはレヴィーが自分の眼で見てからということになりました。『若い(外国籍)選手を連れていきたいがどうなの?』とだけ訊かれましたね。ただ、うちの現状は外国籍枠が埋まっている。いずれもポテンシャルが高いと自負しています。レヴィーにも、韓国代表経験のあるふたりと、確かな実力を持つブラジル人ふたりがいることを説明して、まずは彼らをチェックしてもらいたいと話しました」

──はたしてどんなサッカーを志向するのでしょう?

「これからレヴィーがキャンプで構築していくでしょうからなんとも言えませんが、トレーニングはガラっと変わるでしょうね。ボールを使いながらのトレーニングが基本ですから。本人も練習は好きじゃない、つねに試合をやっていたい、という感覚。試合に近いトレーニングをさせてコンディションを見ながら、実際の試合で最大のパフォーマンスを発揮できるようにする。だから普段の練習では無理をさせないでしょう。とはいっても選手の半分は23歳以下で、若手には身体を作らせながら、ある程度の負荷をかけていかないといけない。足りない部分は宮本(恒精/コーチ兼U-23監督)やチャンヨプ(フィジカルコーチ)、山口(智/コーチ)らスタッフが揃っていますから、上手く連携してくれると思います。結果的にレヴィーが若手のほうも見たがるんじゃないかと思っていますけどね。いろんな意味で、去年とは違います。今後どう機能していくかで、練習のやり方が変わっていく可能性はありますが」

──昨季はトップとU-23を完全に分離して、ひとつのプロクラブにまるで連動しないふたつのプロチームが同居していました。練習場もまともに使わせてもらえないから、吹田から堺まで出かけるなんて日もザラで、明らかな失策だったと思います。U-23のスタッフや選手たちは何度も心が折れそうになっていましたよ。

「トップを優先した結果でしたが、完全に分けたのは失敗だったと感じています。今年は一緒に活動していたおととしの形に戻して、週末だけJ1とJ3に分かれて試合をこなす編成にしたい。過去2年はJ3でユースの選手をたくさん起用してきましたが、今年の明らかに違う点は保有人数。38人ですから。人数を揃えた形で戦えると思う。レヴィーからもアカデミーを含めて、若い選手を見れる環境を作ってほしいと言われています」

「選手を過小評価していない。ポテンシャルを見れば十分戦える」

──今オフの補強はおとなしめでした。井手口陽介選手が去ったボランチには浦和レッズから矢島慎也選手を獲りましたが、即戦力と見なせるのは彼と出戻りの菅沼駿哉選手のふたりだけ。あとは新人7選手という状況です。サポーターの間ではかなり不満の声が上がっています。

「補強のところは、派手さがないからかもしれませんね。ただ強化としては、去年の選手が怪我なく本来のパフォーマンスを発揮すれば、優勝争いができると考えています。得点力を考えたときに心配な部分があるのは確かで、そこの穴埋めをどうするのかについては常に頭の中で考えながら、編成を考えていきたい」

──Jリーグの移籍期限は3月末がリミットです。それまでにクルピ監督から希望があれば、動く可能性はあると?

「あるかもしれない」

──基本的に現有戦力でタイトルは獲れる、駒は揃っていると判断しているわけですね?

「そう考えています。選手を過小評価していないということで、ポテンシャルを見れば十分戦えるはずです。長沢(駿)にしたって去年は二けた(得点)取っていますしね。この冬はJリーグ全体が穏やかな印象です。レイソルやフロンターレが積極的ですけど、獲得した選手が本当の主力級かと言えばかならずしもそうではない」

──今年は高体連から3人の新人選手が加入しました。ユースからの昇格選手がもっぱらだったことを考えると、ずいぶん多いなという印象を受けます。

「そこはフラットに考えています。同じポジションで同じ能力の選手であれば、もちろんガンバユースの選手を優先しますが、今年に関しては高体連の選手が上回ったということです」

──たしかに新人7選手のポジションは異なります。谷晃生選手(ユース)がGK、芝本蓮選手(ユース)がボランチ、白井陽斗選手(ユース)がFW、松田陸選手(前橋育英高)が右サイドバック、福田湧矢選手(東福岡高)が攻撃的MF、山口竜弥選手(東海大相模高)が左サイドバック、そして中村敬斗選手(三菱養和SCユース)が……あれ、FWですね?

「中村は特別枠(笑)。いま獲っておかないといけない選手だったから」

──なるほど。先日取材させてもらいましたが、とてもその言動は17歳とは思えませんでした。

「目標がはっきりしていますからね。同じ年代の子にしてみたら、3歳か4歳くらい年上の考えを持っている選手。自分が目ざすところへの近道がガンバだと感じて、選んでくれたんだと思います」

「松波には、アカデミー強化のキーマンになってもらわないと困る」

──今年から強化部とアカデミー部がひとつの部署に再編され、梶居さんはそのリーダーになりました。その狙いと意図はどこにあったのでしょうか?

「以前からひとつにして、アカデミーをトップにつながる強化の中に組み込みたいと考えていました。アカデミーのテコ入れは急務です。関西圏の他クラブのアカデミーにいい選手を持っていかれたり、中からトップに上げるにしても、コンセプトがブレずにやれているのかと言えば、決してそうではなかった。現場任せで、現場の裁量で物事が進んでいるところがあったんです。クラブの育成方針として、もう一回土台作りをやらなければいけないと感じたんです。キーマンになってもらわないと困るのは、新たなアカデミーダイレクターになった松波(正信)です。セレッソをはじめ外の空気を吸ってきて、問題意識を持って帰ってきてくれたわけで、アカデミーのスタッフのこともよく知っている。期待していますよ」

──それにしてもガンバOBの数が半端ないですね。宮本さん、山口さん、松代直樹さん、児玉新さんがコーチングスタッフとして脇を固め、昨季いっぱいで引退した藤ヶ谷(陽介)さんがジュニアユースのGKコーチになり、強化アカデミー部のスカウトチームは中山悟志さん、中澤聡太さん、青木良太さんと馴染みの面々で構成されている。ここまでOBを重用しているクラブはなかなかないですよ。

「あえて要職に就かせている、という側面はあります。まずはやらせてみないと分かりませんから。大事なのは、ガンバのDNAを引き継ぐ彼らがそれぞれの立場でチーム強化を担うことであり、そうした人材を育てていかなければならない。私はそう考えています」

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