浪速の至宝、宮本恒靖はガンバ大阪の近未来をどう見据えているのか
宮本恒靖にとって2017年シーズンは、試練の連続だった。ひょっとしたら、サッカー人生においてもっとも苦難に満ちた1年だったかもしれない。
J3を戦うガンバ大阪U-23の監督に抜擢されたが、与えられた環境は実に特異だった。本来はトップチームと連携を図りながらチーム運営と選手起用を進めていくところを、クラブの方針により完全に切り離され、まるで単体チームのような活用を余儀なくされたのだ。
トップチームに軸足を置く選手であれば、J1で試合に出れなくてもU-23チームに回ることがほぼない。明らかな悪循環である。必然的にU-23チームは少人数での活動を強いられ、ユースチームから随時高校生を引き上げてJ3を戦った。練習場も吹田の天然芝はなかなか使用させてもらえず、遠い堺グリーンや近郊のグラウンドを間借りする日々。それでも闘将は、愚痴ひとつこぼさなかった。
「どちらかと言えば、育成の側面が強かったですね。成績のところもやるかぎりはたくさん勝ちたいと思っていたけれど、思うような結果は得られなかった(17チーム中16位)。それこそ春先は選手たちにサッカー観の話とかしていたし、本当にいろいろ探りながらでしたよ。でも、夏場くらいから戦い方が見えてきて、最後は6戦負けなし(2勝4分け)で終えられました。与えられた環境で、こういうメンバーでこういう戦い方をすればこういう結果につながっていくんだ、というのは見えた1年ですね」
さすがは、とんでもない個の集まりだったジーコジャパンを束ねていたキャプテンだ。スタッフらの意見を集約し、選手やチームの状況を的確に把握しては、ポジティブな方向へと舵を切っていく。レンタルで北海道コンサドーレ札幌からやってきたMF中原彰吾(今季はV・ファーレン長崎でプレー)は、U-23で頭角を現わしてトップに引き上げられ、新卒入団のMF高宇洋、MF髙江麗央、ユース所属のGK谷晃生、MF芝本蓮といった新鋭たちが日進月歩の進化を続けた。
そして迎えた新シーズン、ガンバは昨季の失策を反省し、レヴィー・クルピ新政権の下でトップチームとU-23の再融合を決定。宮本はU-23監督とトップチームのコーチを兼務することが決まった。
「まだどういう形になっていくかは分かりません。スタートはトップもU-23も一緒にやりますけど、レヴィーの考えが変わっていくかもしれませんから。いろいろ動いていくなかでなにかが見えてきたら、その時々で話していこうと言ってもらいました。選手は38人ですからね。監督もまだイメージできていない部分はあるでしょうし、キャンプで見極めてからになると思います」
宮本はチーム始動のおよそ10日前にはグラウンドに立っていた。U-23世代の若手が集う合同自主トレを監修し、フィジカルコーチのイ・チャンヨプ、コーチの山口智、児玉新、GKコーチの松代直樹らフルスタッフが集結。途中からは倉田秋や新加入の矢島慎也、泉澤仁ら主力級も加わって20名強に膨れ上がり、自主トレとは思えないほどの活況を帯びていった。
「昨シーズンの最後、U-23のほうがトップより1週間くらい早くシーズンを終えたんです。延長してトレーニングを続けてくれと言われたんですけど、それなら退団が決まっている選手とやるより、新シーズンの前に早く集まってやりましょうよと。思っていた以上に参加した選手たちの意識が高かったですね。競争が激しくなるのを個々が予感してるんでしょう。いい雰囲気でやれました。ミニゲームとかオフサイドなしやと言ってるのに、「ライン上げろ!」とか言ってる選手がいるし(笑)。レヴィーに見てもらう前に怪我をされたら元も子もないんで、あんまり飛ばさないようにと注意しました」
U-23監督との兼務ながら、宮本自身、プロのトップチームを指導するのは初めての経験だ。当然、これまでとはアプローチも変わってくる。
「レヴィーは素晴らしい指導者だと思っているし、監督としての仕事の進め方、選手との接し方とか、それこそすべてを近くで見ながら学びたい。1週間をどう捉えて、J1とJ3のふたつの試合に臨んでいくのか。U-23監督とのバランスも見極めながら、自分に託された仕事をこなしていければと思っています」
冷静に振る舞いつつも、どこか楽しそうに見えるのは気のせいか。
「若い連中が競争の中でどれだけ成長していくのか。例えば去年、高や髙江、芝本らはプロの先輩たちとほとんど一緒に練習をしてなかったけど、今季はようやくそれが叶う。どういう反応が出るのか楽しみですし、高卒の新人選手たちがどんな取り組みを見せてくれるのかも興味深い」
そして最後に、聞きたい言葉が聞けた。やはり根っからの、G戦士である。
「トップは2年連続で無冠に終わってます。個人的に覇権奪回なんて言い方はあんまりしたくないんですけど、今シーズンのタイトルを狙いながら、これからもそこの立場に居続けられる、下地を作っていかなきゃいけないと思っています。そのために、自分にやれるだけのことをしたい。見るべきものを見て、学ぶべきものを学びたい」
不惑を迎えた男はこれまでと同様、前だけを見据えている。