ガンバで一番シュートが上手い17歳。クルピ監督が惚れる中村敬斗の才能。

“飛び級”でプロ契約をかわした17歳は、ストライカーとしての「所信表明」を埼玉スタジアムのピッチ上で体現してみせた。

3月14日のルヴァンカップ・グループステージでガンバ大阪は浦和レッズと対戦したが、三菱養和SCユースから今季加入した中村敬斗は87分、自陣で遠藤保仁のパスを受けるとドリブルを開始。約60メートルを独走しながら最後は西川周作が守るゴールを豪快にぶち抜いたのだ。

遠藤からのボールを受けた瞬間に槙野智章をターンで振り切り、ゴール前では阿部勇樹のマークをものともせず、冷静にフィニッシュ。ロングカウンターの際、中村の目には相手ゴールしか映っていなかった。

記念すべき初ゴールが生まれる9日前、中村は記憶に残るルヴァンカップの名ゴールを問われると、何の迷いもなくこう答えを返していた。

「アデミウソンが1人でぶっちぎったゴール。あれはちょっと衝撃ですね。憧れますね」

FWが個で打開するプレーを。

 2016年のルヴァンカップ決勝。G大阪は浦和と対戦して1-1の末にPK戦で敗れたが、アデミウソンはハーフライン付近からドリブルシュートを決めていた。

「あれこそFWが個で打開するプレー。ああいうプレーヤーになりたい」

こう言い切った中村にとっては、正に有言実行の一撃だったのだ。

過去2シーズン無冠に終わっているG大阪のアキレス腱は、絶対的な点取り屋の不在である。アデミウソンが、昨年から悩まされているグロインペイン症候群でキャンプから出遅れ、ある程度計算の立つアタッカーは昨年のチーム得点王、長沢駿と韓国代表FWのファン・ウィジョの2人のみ。しかし、レヴィー・クルピ監督は開幕前から「ケイト(敬斗)には信頼を置いてるし、非常にポテンシャルは高い」とすでに戦力の1人として計算を立てていた。

アカデミー以外で初の飛び級プロ契約。

 古くは稲本潤一や宇佐美貴史、近年では井手口陽介や堂安律ら、G大阪では飛び級の高校生プロは決して珍しい存在ではないが、中村はアカデミー出身者以外では初めて飛び級でプロ契約を勝ち取った。

複数クラブが繰り広げた争奪戦の末、U-17W杯でも活躍した俊英が選んだのは大阪の地。いや、正確に言うならばG大阪を率いることになるブラジル人の名将の存在に惹かれたのである。

「クルピさんがガンバの監督になるというのが一番大きかったですね」(中村)

クルピ監督はかつて率いたセレッソ大阪で香川真司や乾貴士らをブレークさせた名伯楽。だが中村はクルピ監督に育ててもらいたい、と考えているわけではない。

「クルピ監督は若手を育てようというよりは結果を出した選手をシンプルに使うと聞いていた。だからキャンプから結果を出すつもりでいた」

2月の沖縄キャンプではFC琉球相手に2得点。そのシュートセンスは、当然ながらブラジル人指揮官の目にも留まる。Jリーグを熟知したクルピ監督が指摘する日本サッカー界の欠点は「パスは上手いが、シュートが良くない」である。

「一番シュートが上手いし、強い」

 浦和戦で中村が決めた初ゴールを問われたクルピ監督は「17歳だが、チームの中で一番シュートが上手い選手、そして一番強いシュートが打てる選手」と試合後の会見でハッキリ言い切った。

その言葉に嘘がないことはここまで出場した試合が物語る。

高卒ルーキー、福田湧矢の開幕スタメンにややかすんだ感があったが、名古屋グランパスとの開幕戦では途中出場するとズドーンと音が聞こえてきそうなパンチの効いたシュートで場内を沸かせると、第2節の鹿島アントラーズ戦でも長沢とのコンビネーションからポスト直撃弾。途中出場ながら、明らかに17歳は相手チームの脅威になっていた。

セレソンの元世代別代表も惚れ込む力。

 もっとも、中村敬斗という才能を際立たせるのはシュートセンスやフィジカルだけではない。日々、口にする言葉の端々に世界を目指す17歳の意識の高さが見て取れるのだ。

シュートがポストに嫌われた鹿島戦の直後には「もう僕はアマチュアじゃない。決めきれなかったことに責任を感じる」と自らを責めたかと思えば、浦和戦での初ゴールについては「先発で出たらまだ相手もフレッシュな状態にある。そういう時に今日みたいなガチンコのプレーが出来るかどうか」と自身を客観視することも忘れない。

17歳でプロの世界に飛び込んだ青年のポテンシャルは、かつてサッカー王国の世代別代表の常連だったアタッカーをも魅了している。

ブラジル屈指の育成組織を持つ名門サンパウロの生え抜きで、18歳にしてトップデビュー。U-21ブラジル代表でも背番号10を託されたアデミウソンは「レヴィーも凄く気に入ってるみたいだ。体格もいいし、技術もある、年齢を考えれば、質は高い」と手放しでの絶賛だ。

「ケイトはチャンスをうまく活かした」

 前に仕掛ける意識や、狭い局面をワンツーで打開することを得意とするのは中村とアデミウソンの共通点。中村のセンスを認めるが故に、アデミウソンはこんなアドバイスを送っている。

「いいシュートを持っているんだから自ら仕掛けて、チャンスがきたら思い切って打てばいい。それで味方から文句を言われたとしても一度謝って、同じようなチャンスが来たら、またどんどん仕掛けたらいいんだ」

アデミウソンが出遅れたことでFW陣の層の厚みに不安を抱えているG大阪。しかしクルピ監督は「こういう状態では誰かが現れて来るもの。ケイト(敬斗)はそのチャンスを上手く活かしたと思う」と語る。

「17歳で途中出場が凄いなんて思ってない」

 チームメイトの市丸瑞希が負傷したことでU-21日本代表のパラグアイ遠征にも飛び級で招集されるなど、中村は順調なルーキーイヤーのスタートを切った。

3月31日のFC東京戦を皮切りに連戦が続くG大阪だが、アデミウソンは浦和戦で脇腹を痛めて、戦線復帰が不透明。チームにとっての危機は、野心溢れる若きストライカーにとってのチャンスになるはずだ。

「世間的には若いと思われているかもしれないけど、僕は17歳で途中出場が凄いなんて思っていない。スタートから試合に出て、結果を残していくのが普通になっていかないといけない」

G大阪は世界を目指す中村にとって通過点――。甘えも奢りもなく、ただひたすらに、相手ゴールに迫るだけだ。ストライカーの本能とともに。

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