勝負師ツネ、会心の采配! なぜガンバ大阪は土壇場でJ1王者を寄り切れたのか

どちらに転んでもおかしくない状況下で…

[J1リーグ第4節]川崎 0-1 G大阪/3月17日/等々力

ガンバ大阪にしてみれば、絵に描いたような快勝劇だろう。

技巧派のブラジル人アタッカー、アデミウソンは試合後、「こんなに走ったゲームは過去にもなかなかないね」と笑った。それでも、「疲れた」とは言わない。「相手はフロンターレだよ? 今日は一人ひとりに守備のタスクがきっちり与えられていて、僕もそれを全うしようと必死に頑張った。当たり前のことをしただけさ」と胸を張るのだ。

J1リーグ第3節を終えて、ガンバは1勝2敗。8得点はいかにも立派だが、いただけないのは失点数だ。同時に8失点も喫しているのだから目も当てられない。前節の名古屋グランパス戦では、2-2のスコアでゲーム終盤に突入し、攻撃のカードを立て続けに切って勝負に出たが、逆に勝ち越し点を奪われて沈んだ。

週が明け、宮本恒靖監督は策を講じる。

CBの三浦弦太を右SBにせり出させ、4バックを「3バック+左SB」のようなイメージで再構築した。4-4-2から4-2-3-1にシステムを変えてピッチのスペースをくまなく埋めさせ、選手たちにはより一層のハードワークを厳命。水曜日のルヴァンカップ(松本山雅戦/2-1で勝利)でチームは結果と内容を伴う出来を披露した。

今節の川崎戦は、ルヴァンカップとまったく同じスタメンと布陣を選択した。指揮官は「ルヴァンで起用したメンバーのパフォーマンスがある程度良かったことと、ルヴァンはこの試合(川崎戦)を見据えてのものでもあったので、同じメンバーで行こうと考えた」と明かす。選手個々のインテンシティーは過去3戦にはなかったほど苛烈で、川崎に好機を掴まれ、守→攻の切り替えが上手く行かずとも、アグレッシブに手数を出すことを忘れない。実に、鬼気迫る戦いぶりだった。

試合はスコアレスのまま推移する。後半途中、川崎がふたりの交代選手を使って前がかりになっても、宮本監督は動かなかった。カードを切るのではなく、トップ下にいた遠藤保仁を本来のボランチに下げ、倉田秋をサイドに張らせる4-4-2へとシフトチェンジしたのである。この11人で決勝点を取りにいけ、そんなメッセージが込められていただろうか。

90分近くになっても、指揮官ツネはひとりも交代枠を使わなかった。

「交代ですか? あえてする必要はないと思ってました」

「交代ですか? あえてする必要はないと思って見ていました。流れとして、残り10分を切ったあたりからこっちにも1点を取れるチャンスがかならず来る。もちろん相手にもあるやろうし、どちらに転んでもおかしくないなかで、このまま行きたいと思った」

実際、ガンバは藤春廣輝が、川崎はレアンドロ・ダミアンがビッグチャンスを迎え、ともに決め切れなかった。そして浪速の雄の“3ポイント”への執着が見事結実するのだ。

アディショナルタイム1分、小野瀬康介のパスを中央で受けたアデミウソンが、素早く持ち出して左サイドに展開。倉田がタメると、颯爽と背後を駆け抜ける藤春へ絶妙なパスを送ってサイドを抉る。高速のグラウンダークロスが送られ、ニアでファン・ウィジョが潰れ、ボールがファーへ流れて──。待ち受けたのは、なんと一気に攻め上がっていた右SB、三浦だった。冷静にゴールへ蹴り込み、歓喜の瞬間を享受した。

試合中、タッチライン際で宮本監督は三浦に発破をかけていたという。

「このまま0-0で行けば、絶対にチャンスが来るからそこを狙っていこうと、弦太にはライン際で語りかけていました。ハーフタイムにもみんなに、とにかくゼロで試合を進めよう、そうすれば勝機は見えてくるはずやと」

さらにこう続ける。

「3試合を終えて、とにかく失点が多い。まるで意図するシーズンじゃなかった。そこに選手たちも危機感を持って取り組んだ結果やと思いますし、練習からそういうものを求めていかなきゃいけないんだと、僕自身もあらためて思わされた。今日はある程度相手にボールを持たれても我慢強く対応して、(自陣の)エリア付近からボールを押し返すところがしっかりできていましたね。ただ、ショートカウンター気味の攻めは良かったんですが、ボールを持ったときにもっとリズムを変える動きや、パスの質が必要。まだまだ課題は少なくないです」

今季公式戦初のクリーンシートを、J1王者を相手に決めた。思い起こせば昨季の第25節、本拠地パナスタでの川崎戦快勝を皮切りに、新生・宮本ガンバは確固たる自信を掴み、9連勝へと繋げた。敵地・等々力で得たこの手応えもまた、なにものにも代えがたい原動力となるはずだ。

勝負師は、ひと息ついてポツリと言った。

「ホンマに今日は、選手たちがよく頑張ってくれました」

リンク元

Share Button