ガンバ大阪が抱える「闇」。低空飛行の原因を探る

「魅力的なサッカーができなかった。何がとりえなのか、出せていない」

今野泰幸が厳しい表情で、そう語る。

この言葉が今のガンバ大阪を象徴しているのではないだろうか。

1-1のドローに終わったJ1第8節の大分トリニータ戦、前半は大分のFW藤本憲明を警戒し、5バックにして相手にスペースを与えず、ゼロに封じる戦い方を宮本恒靖監督は描いていた。しかし、前半25分、右サイドからのクロスをオナイウ阿道に押し込まれ、あっさりとプランは崩れた。

「前半は0-0でいくプランで失点した。あの(5バック)戦い方を監督が選択した中でプランどおりにできなかった」

遠藤保仁がそう語るように、後手を踏んでしまった。

それでも後半、4バックにしてアデミウソン、小野瀬康介を投入し、いつのもガンバのようにボールを握って、攻めた。後半26分、遠藤のゴールで追いつき、勢いもあった。

しかし、押してはいるが、今野の言葉にあるように魅力的な「ゴールの必然性」といった展開がないのだ。

そこに、いまのガンバが抱えている”闇”が透けて見える。

「相手チームによって、戦い方を変えて対応していく」。聞こえは悪くないが、選手の力とシステムがマッチし、自分たちのスタイルを持つチーム、たとえば川崎フロンターレ、コンサドーレ札幌、FC東京、名古屋グランパスはそれをどんな相手にも押し通し、力でねじ伏せて勝つ。負けても、それが将来につながるからと掲げた旗を降ろさない。そこにチームの強みとプライドが感じられる。

今のガンバは、そこに至らないのが現状だ。

開幕以来、この日の大分戦まで2勝5敗。12得点16失点で15位。

一方、大分は3位。現有戦力を見渡し、対戦相手との力関係を考えれば「攻撃的サッカー」を押し通すスタイルには至らないのは、仕方がないことだ。三浦弦太も「自分たちのスタイルでやれればいいと思うけど、そのレベルにいけていないので、相手に合わせてやっていると思う」と、すっきりしない表情を見せつつも納得はしている。

J2昇格組のチームに、攻撃的スタイルの看板を下ろし、引いて対戦うことに忸怩たる思いを持っている選手もいるだろうが、順位が現実である。上位チームに勝って自信を回復し、勝っていく中でスタイルを確立していくやり方もあるが、この日のように勝ち切れない中では、それを見い出すことはむずかしい。

大分戦も含めて、宮本監督は勝つためにゲームプランを考えているが、思いどおりに進まない。しかし、低空飛行の原因は現場だけにあるのだろうか。

大分戦のガンバのスタメンの平均年齢は30.91歳だった。大分は26.55歳である。サッカーは年齢でするものではないが、これを見て今後を憂慮する人は多いだろう。

高齢化による世代交代がうまく進んでいないことは明確だ。

たとえば、ボランチの遠藤と今野について前節の浦和戦後、宮本監督は「ガンバがここ数年抱えている、どうしていくんだという部分だと思います」と述べていた。たしかに、遠藤と今野の後継者問題は昨日や今日に起きたことではなく、西野朗監督が退任した時からの課題だった。それは、現場というよりもそれを見て見ぬふりをしてきたフロントの責任が大きい。

本来であれば、遠藤と今野が日本代表でプレーしているうちに、その後釜となる選手を獲得し、後継者を育てるべきだった。しかし、このすばらしいお手本を活かすことができていない。鹿島のように持続的視点でチーム作りを考えることができず、なおかつ後継者となる優秀な選手を獲得するノウハウやスカウティング網、そしてそれらを編成する「目」がガンバにはなかったのだ。

その結果、今も年長のふたりに頼らざるを得ない状況になっている。

チーム編成が歪んだことで、チーム内はヒリヒリするような競争力を失っている。人間は追い立てられるものがなければ、その場に慣れて、成長するのが難しくなるものだ。

名古屋、鹿島アントラーズ、川崎など強いチームはチーム内競争が厳しいので、レギュラーであっても安閑としてはいられない。だから、スタメン出場した選手は結果を残そうと懸命にプレーし、途中出場の選手も負けられないと意地を見せる。それがチーム力の底上げを可能にする。

大分戦はいつものスタメン組がベンチスタートになったが、それは競争ではなく、あくまで戦術的なもの。田中達也は初スタメンで監督の指示を守ることはできたがプラスアルファを出し切れず、アピールにはならなかった。

終わってみれば、いつもの顔ぶれがピッチに立っていたのだ。

現在のガンバは、どうだろうか。

ガンバの下部組織からは、井手口陽介、堂安律ら海外に飛び出していった優秀な選手は生まれているが、今のガンバを支える若手は育っていない。チームは多くの主力が30歳を超え、若手のレギュラー格と言えば三浦弦太、J2から移籍してきた小野瀬康介しかいない。

開幕前、宮本監督はセンターライン(トップ、ボランチ、センターバック)に優秀な選手を欲していた。だが、センターバックのキム・ヨングォンを獲得しただけで終わっている。

予算が厳しいのかもしれないが、名古屋のジョアン・シミッチのような即効性のある優秀な選手を獲得してくるルートやコネクションがガンバにはないのだろうか。

起爆剤や救世主となる選手が出てくるなり、そういう選手を獲得してほしいが、現実的には宮本監督が要求したリクエストすら実現できていない状況だ。

選手を獲得してくるべきと書いたが、そう言われることに対してガンバの若手はもっと危機感を抱くべきだろう。チームが苦しんでいる中、宮本監督は何かを変えてくれる選手を望んでいるし、違いを見せれば出場を得られるチャンスなのに、誰ひとり出てきていない。「ガンバに入団できて満足」では、3、4年後にはいられなくなる。

「俺がやってやる」

そういう気概のある若手が出てきてほしいのだが……。

「監督の考えることをしっかりやれれば結果もついてくると思うので、とにかく結果を求めてやっていくしかない」

三浦は、厳しい表情でそう言った。

 すべてが思いどおりに進まないのは織り込み済みだろうが、勝てていない状況では、まずは監督の要求を確実にこなしていかないと勝てる試合を落とすことになり、次の段階にも進めない。

直近の課題だけではない。未来のガンバをどうするのか――。西野監督退任後、その視点が失われてきた。ただ、失われた7年間を嘆いていても仕方がない。

現場は勝ちにこだわりつつ、フロントは将来を見据えてチーム改革に取り組む。当たり前のことだが両輪が機能しなければ、3年先はおろか、5年先でさえ「魅力的なサッカー」を実現することは難しくなる。

未来は、まず宮本監督の描くゲームプランを実現して勝つことから始まる。それができなければ、迷走の時代が続くことになりかねない。

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