4年連続無冠ガンバが立ち直るため、宮本監督が残留争いで試されるもの。
4年連続の無冠という厳しい現実を突きつけられてから3日が経過してもなお、選手たちの心の傷は癒えていなかった。
「相当、ショックでしたね。結構、引きずっています……。こんなに引きずるのはサッカー人生で初めてかも」
朴訥な口ぶりが特徴の小野瀬康介は、8分程度の囲み取材で「ショック」という言葉を2度口にした。
10月13日のルヴァンカップ準決勝第2戦で北海道コンサドーレ札幌に0対1で敗戦。ガンバ大阪はアウェイゴールの差で決勝への切符を逃した。
札幌相手に0-1でルヴァン敗退。
ホームで行われた第1戦は2対1で勝利。引き分けでも勝ち上がりが決まるアドバンテージを活かしきれなかった宮本恒靖監督は「アウェイゴールを初戦で献上したことがこういう結果になった」と振り返った。だが、敗因はアウェイゴールを与えたことではなく、敵地で点を取りきれなかったことにある。
「アウェイゴールこそ、僕らが狙いに行くべきもの」と敵地での一発に意欲的だった宇佐美貴史が左太もも裏を痛めて前半34分に負傷交代するアクシデントに加えて、アデミウソンが決定機で再三のシュートミス。取りきれず、守りきれずという今季の足取りを象徴するようなゲーム展開で、唯一残されたタイトルへの夢を断ち切られた。
「我々は、このピッチでもっとレベルの高いことをやります」
昨年11月のホーム最終戦後のセレモニーで、サポーターに対して声高らかに宣言した指揮官ではあったが、就任2年目に残された現実は、無冠に加えて2年連続での残留争い。そして天皇杯では2回戦で再び、大学生相手に完敗というビッグクラブにあるまじき屈辱の結果のみだ。
評価すべき宮本監督の実績とは。
残してきた成績だけで判断するならば、宮本監督に与えられる評価は「不合格」。だが、常勝軍団の復権だけでなく、世代交代への道筋をつけるという難しいミッションを託されたレジェンド監督は、5月に行われたセレッソ大阪とのダービーでプロ2年目の福田湧矢や高江麗央、大卒ルーキーの高尾瑠らを先発に抜擢するサプライズ布陣で勝ちきった。
世代交代に関して一定の実績を残してきたのは、評価すべきポイントだ。
ただ、宮本監督が見せてきた2年目のチーム作りは、未だその「顔」をはっきりと見せていないのも事実である。
破竹の9連勝でJ2降格の危機からチームを救った昨季は、ファン・ウィジョの決定力を前面に押し出す手堅いサッカーを確立。4-4-2を基本に「奪って速く」というコンセプトは明確に打ち出されていたが、今季は未だにベストの布陣を見出しきれていないのが現実だ。
戦力的に恵まれているとは言い難かったシーズン序盤とは異なり、7月には宇佐美とパトリックを獲得。その後も井手口陽介と元スペイン代表のマルケル・スサエタらがチームに加わり、戦力的には上位陣に引けを取らない陣容のガンバ大阪ではあるが、「相手や状況に応じて3バックと4バックを併用して行ければ」と理想を口にする指揮官が逆に袋小路に入り込んだ感が否めない。
課題は選手のマネージメント力。
若き指揮官が抱える一番の課題は、やはり選手のマネージメント力である。
今夏、ガンバ大阪からはクラブ史上例を見ない8人の選手が完全移籍、または期限付き移籍で新天地へと旅立った。
欧州へ渡ったファン・ウィジョや中村敬斗、食野亮太郎に関しては不可抗力の流出ではあるが、疑問が残るのは今野泰幸やオ・ジェソク、米倉恒貴らベテラン勢の移籍である。
「シーズン途中の移籍なんて考えたこともなかったし、最後まで一緒にみんなと戦いたいという気持ちが強かった」とガンバ大阪での最後の囲み取材で、今野は複雑な胸の内をこう明かした。
今野ら3人はいずれも2014年の栄冠を支えた「三冠戦士」。ガンバへの愛着も帰属意識も人一倍強いベテランたちがチームを離れたのは、やはり、そのマネージメントに問題があったからと言わざるを得ないのだ。
ベテランへの手厚さがあれば。
もちろん、過去の実績ではなく現在のパフォーマンスで判断されるべきプロサッカー選手である。昨年負っていた負傷の影響もあって、今野はシーズン序盤から本来のパフォーマンスに程遠く、オ・ジェソクも米倉も全盛時の輝きを見せきれてはいなかった。
ただ、数少ない公開練習の際に行われる紅白戦で、サブ組に回るベテランたちの起用法を見れば明らかに序列の低さが伝わってくる上に、宮本監督は密なフォローを必要と考えない指導スタイル。酸いも甘いも噛み分けてきた彼らに対して、もう少しの手厚さがあれば、と思わざるを得ないのだ。百戦錬磨のベテランとて、所詮は人間なのだから。
誤解を避けるためにあえて付け加えると、造反や内紛には縁がないのがガンバ大阪の良さである。チームを離れた選手からの監督批判を、少なくとも筆者は聞いていない。
なおガンバ大阪では出番を失っていたSBのオ・ジェソクが、当時首位を走っていたFC東京では8月以降、先発で持ち前の堅守を披露。守備戦術の整ったチームでは依然、戦力になりうることを証明した。
一方、ガンバ大阪は5月のダービー以降ベースとしてきたはずの3バックから一転し、9月に入ると4バックの再導入を目指す。だが、9月28日のセレッソ大阪戦ではその4バックが崩壊し、1対3で惨敗した。現状のメンバーでは唯一右SBを本職とする高尾だが、SBでの独り立ちには目処が立たず、皮肉にもSBの人員不足が露呈するチグハグな状況に陥っている。
宇佐美に続きアデミウソンも負傷。
ルヴァンカップの準決勝で負傷した宇佐美に続いて、好調だったアデミウソンも股関節の痛みで10月19日に行われる川崎フロンターレ戦は欠場が濃厚。佳境を迎えた残留争いは、文字通りの総力戦になるはずだ。
「我々もルヴァンカップに負けた後の試合で、残留争いに向けても大事になる。皆で気持ちを1つにしてやれるかどうか」(宮本監督)
残留争いを勝ち抜くことが今季残された最後のミッションとなるが、同時にクラブには来季も契約を残すレジェンド指揮官の功罪をシビアに評価する作業が待っている。
青年監督を育てるのはクラブの義務。
昨年8月、「ガンバ愛」ゆえに火中の栗をあえて拾い、J1残留に導いた宮本監督。自身が望むタイミングで就任したわけではない指揮官だけに、経験値の少なさや采配の甘さを責めるのは酷というものだ。
少なくともガンバ大阪U-23の監督時代には少人数の練習ながら、要所で狙いのあるサッカーを体現した。そして今季は京都サンガで活躍する一美和成を綿密なマンツーマン指導で育ててきたのも、宮本監督が残した実績の1つ。トップチームで指揮を執ってまだ1年半の青年監督の課題を指摘し、そして育てるのはクラブの義務と言えるだろう。
ツネ自身が変化するのか、ツネそのものを変えてしまうのか――。次に問われるのはガンバ大阪のマネージメント力である。