堂安律&食野亮太郎をタフにしたG大阪U-23と、育成リーグへの懸念。

今年でJ3リーグに参入して4年目となるガンバ大阪U-23。このガンバ大阪の弟分はセレッソ大阪U-23やFC東京U-23と比べると、最もJ3リーグを戦う恩恵を受けたクラブだと言っても過言ではないだろう。

順位だけを見れば昨年の6位が最高成績だが、J3のカテゴリーを経験した若手から既に何人かが世界に羽ばたいている。

堂安律は2016年のルーキーイヤーこそトップチームに定着しきれなかったが、J3リーグで21試合10得点。別格の存在感を見せ、翌年には早くもオランダへと旅立った。

今年1月の始動段階ではJ3を主戦場とした食野亮太郎もJ3リーグで8試合8得点。早々にガンバ大阪U-23を「卒業」する格好となり、トップチームで輝きを放ったかと思えば、8月にマンチェスター・シティに完全移籍。現在はスコットランドリーグのハーツに期限つきで移籍し、U-22の日本代表に選出されるまでに成長した。

「練習試合とは全く緊張感が違う」
食野と同様に始動段階ではトップチームに絡めず、ガンバ大阪U-23でさえ開幕当初はレギュラーを取りきれていなかったプロ2年目の福田湧矢も、トップチームで代表キャップを持つ藤春廣輝を脅かす存在に成長した。福田は言う。

「J3を戦った経験があるからこそ、今の自分がある。練習試合とは全く緊張感が違うので」

このリーグで、いい意味での場違い感を醸し出していた堂安は別格だが、食野や福田らはJ3リーグが持つ特殊な環境で身も心も磨いてきた。

伝統的に足元の技術に長けた選手を輩出してきたガンバ大阪ユースだが、ややもすると現代サッカーにおいて不可欠なハードワークやフィジカルコンタクトを弱点とする若手が多かったのも事実。今季からガンバ大阪U-23を率いる森下仁志監督は球際の激しさと個の仕掛けを選手たちに求めており、指揮官にとってもJ3リーグのカテゴリーは渡りに船だったのだ。

様々なスタイルの相手と戦える。
迎えた2019シーズン、3月10日に行われたヴァンラーレ八戸との開幕戦で、ガンバ大阪U-23はJFLからの昇格組に苦戦を強いられ、2対2のドローに終わった。

時に荒さもあったヴァンラーレ八戸のコンタクトに手こずったガンバ大阪U-23だが、試合後の記者会見で森下監督は目を輝かせてこう言った。

「彼らにとっては最高の相手ですね。やっぱり僕はこういう相手を求めていたし、トップチームと紅白戦をしても、なかなか空中戦になるボールは出てこないので、どれぐらいやれるのかなと。このリーグで戦うには、やっぱり練習の中でやっていかなきゃいけないなと再認識しました」

J3リーグには、ロングボールを多用するチームがあれば、前線からアグレッシブにプレスを仕掛けてくるチームもあり、様々なスタイルの対戦相手が待っている。しかもJ2リーグ昇格を目指すチームなどは、なりふり構わずにセカンドチーム相手に勝ち点3を取りにくる真剣勝負の連続である。

9月7日にアウェイで行われたロアッソ熊本戦は、その象徴だった。首位争いの最中にあったロアッソ熊本のホームには、16027人のサポーターが集い完全アウェイの雰囲気。先制したロアッソ熊本は、先発の平均年齢が10代のガンバ大阪U-23に対し、試合終盤には虎の子の1点を守るための人海戦術を採用。なりふり構わぬ戦いで守り切ったのだ。

フィジカルと戦術理解度の差を体感。
上野山信行取締役はJ3リーグを戦う効果をこう話す。

「対戦相手にはベテランもいて、いろんなチームと試合ができる経験が大きい。僕はJ3リーグでは負けから学ぶことが大きいと思っている。チームによってスタイルは違う。例えば、勝っている時にリトリートして守ってくるチームもあるし、90分間で試合にいろんな変化があるのが大きい。そういう経験をすれば選手も『えっ』と思うし、思考が回るようになるからね」

上野山取締役の狙いはチーム最年少の16歳にもしっかりと響いていた。

ロアッソ熊本戦で、90分間ピッチに立った中村仁郎は当時35歳の片山奨典とマッチアップ。ロアッソ熊本の堅い守りをこじ開けきれずに、タイムアップの笛を聞いている。

「ユース年代だと、相手に引かれても勝てた試合が多いけど、J3だと打開できずにそのまま終わってしまうことも多い。J3を経験するようになって感じるのは、フィジカルの差と相手の戦術的な理解力ですね」(中村)

新設エリートリーグへの懸念とは。
すでに対戦相手から厳しいマークを受け始めている中村ではあるが、プレーの幅を広げるべく右足のシュートも意識し、9月28日のセレッソ大阪U-23戦ではその成果をゴールに結びつけるなど、着実に成長し続けている。

またJ3リーグでは7試合で7得点という暴れっぷりを見せている唐山翔自も、堂安と同じく飛び級でのトップ昇格が決定した。

J3リーグ参戦を生かして、トップチームに人材を送り出すだけでなく、2種登録のユース組も着実に磨き上げてきたガンバ大阪U-23。しかしながら、J3リーグを戦うのは来年がラストシーズンになる。

ガンバ大阪が懸念するのは、来年からJリーグが新たに立ち上げる「エリートリーグ」の存在だ。

若手に実戦経験を積ませることを主眼にするリーグだが、上野山取締役は手厳しい。

「あるチームはユースが主体で、あるチームはU-23になってしまうのではという懸念はある。対戦相手を考えるとうちにはあまりメリットがない。僕の個人的な考えでは新しいリーグに入るつもりはないし、ガンバは独自のチームをキャンプで鍛え上げるとか、海外の大会に送ってもいいと思っている。それに僕が考えるカテゴリーはU-21。23歳ではもう遅い」

松波強化部長が指摘する強度の差。
Jリーグの実行委員会に疑問を投げかけたのは、アカデミーダイレクターも兼任するガンバ大阪の松波正信強化部長だ。

「エリートリーグについてはJリーグに『プレーの強度はどうなのか』と話はした。今のJ3にはJ2昇格を目指すチームや経験ある選手、さらには這い上がっていこうという選手もいてプレーの強度的にも、我々にとって非常にいいリーグ。エリートリーグだといい選手が集まるかもしれないが、同世代のいい選手の集まりでは強度が……」

足元の技術に長ける選手たちをJ3リーグの強度の中で磨き上げてきたガンバ大阪U-23だけに、松波強化部長の指摘はもっともだ。

現時点では参加に否定的だが。
上野山取締役はエリートリーグへの参加に否定的だが、松波強化部長は「エリートリーグがどういうリーグになるのかを、J3の最終年に見極めながら、今後の育成方針について上野山さんと話をしていく」と言う。

今季のガンバ大阪U-23からは、主力がトップチームに抜擢されたり、J2リーグの他クラブに期限付き移籍したりもした。攻撃の顔ぶれは変わりながらも、J3リーグでは2位の得点数を叩き出している。

J3リーグという「リトマス試験紙」を手にしたガンバ大阪がいかなる育成の道を歩むのか――。唐山や中村、さらには来季トップ昇格が決まっている川﨑修平らダイヤの原石の磨き方が楽しみだ。

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