マリノス、宮本ガンバの策に屈す。「愚かな失点」と消された爽快さ。

王者横浜F・マリノスのチューニングがまだ合わないようだ。

ゼロックス・スーパーカップでヴィッセル神戸にPK戦で敗れた横浜F・マリノスが、ガンバ大阪との今季J1開幕戦を1-2で落とした。3万4521人を集めたホームスタジアムでも、2週間前の埼玉スタジアムでの一戦と同じように、前半は研究してきた相手に押し込まれ、後手を踏む展開となった。

「(2人が決めたあと5人が外した)PK戦は、おそらく今の自分たちのスタンダードを表している。我々はまだ、なまっている」

スーパーカップ後の会見で、マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督は敗戦をそう振り返った。

ただその直前に、「プレシーズンのような試合になってしまった」と話しているように、まだどこか鷹揚に構えている雰囲気があった。「愚かな失点」を嘆いてはいたものの、やり方は変えずに、また昨季のようにスピーディなパスワークで「ゲームをコントロールしていきたい」とあらためて決意を示している。「相手がどこで、どんなことをしてこようとも」と付け加えて。

再び起こった「愚かな失点」。
けれど、指揮官が「プレシーズンのような」と形容した鈍い内容は、レギュラーシーズンの初戦でもさほど変わらなかった。いや今回は90分で屈しており、結果からは悪化したとも言える。「愚かな失点」もまた起こった。

「昨年の開幕戦もマリノスと対戦して、負けているので、まず勝つということを目標に。そこから逆算して、色々な試合を観て対応策を練った」と明かした宮本恒靖監督が指揮を執るガンバに、マリノスは開始から組織的なハイプレスを受けた。

6分には、左の深い位置で扇原貴宏と伊藤槙人が相手に寄せられ、たまらず戻した先のGK朴一圭がトラップミス。矢島慎也にボールをさらわれ、最後は倉田秋に先制点を決められた。ポステコグルー監督はこういう失点を、Silly──愚かな、と表現する。

宮本監督が講じた2つの狙いとは。
さらに34分、バックパスを受けたGK東口順昭がダイレクトで左前方へロングフィードを送ると、抜け出した倉田からのグラウンダーのクロスを矢島が仕留めて、ガンバがリードを広げた。

10番と21番のコンビで奪った2つの得点には、宮本監督の狙い──「奪いきる守備」と敵のSBが空けた隙を突くこと──が見て取れた。

「今日は特殊な形で、いつものフォーメーションではなかったんです」と倉田は試合後に打ち明けた。「マリノス対策というか、相手に合わせたシステム。守備時は5-4-1(右のMF小野瀬康介が最終ラインに落ちる形)、攻撃時は4-1-4-1みたいな。特に気をつけていたのは、相手の攻撃時にSBが中に入ってくるところ。そこを消そうと」

たしかにこの日は、横浜FMの左SBティーラトンと右SB松原健が中央に入ってポゼッションを高めるシーンが少なかった。それはガンバが昨季リーグ覇者から勝利を奪うために講じた策の効果でもある。

後半に入って主導権を奪い返すも。
15年ぶりにライバルたちの挑戦を受ける立場となった横浜FMは今季、相手からつぶさに研究され、強みを消され、弱みを突かれることが増えるはずだ。すでにスーパーカップで神戸が、開幕戦でガンバが、そのようにして王者から白星を奪った。

それでもマリノスを率いる54歳のオーストラリア人指揮官は、「勝ち負けによって、何かを変えようとは思わない。これまでと同じフットボールを続けたい」と言う。

神戸戦と同様に、マイナーチェンジを施した後半には主導権を奪い返し、マルコス・ジュニオールの得点で1点は返した。しかしこの日はそこで打ち止めとなり、ホームでの開幕戦に敗れてしまった。

スーパーカップでの試運転の後、 AFCチャンピオンズリーグのグループステージでは敵地で全北現代を2-1で下し、ホームでのシドニーFC戦は4-0の大勝を収めたが、やはりJ1はアジアのこの段階よりも厳しい戦いなのだろう。

ガンバからは王者を称える声も。
「神戸、ガンバ、そして来週の相手FC東京も、すべて強いチームだ」とポステコグルー監督は強調した。「うちにスーパースターはいない。我々がベストの状態の時は、良いチームとなる。つまり、常に最高のプレーをしなければならないのだ。そうでなければ、苦しむことになる」

ただし対戦相手からは、チャンピオンを称える声も聞かれた。

ガンバの勝利の立役者のひとり、倉田は「終盤はきつかった。うまい、強いっすよ、マリノス。なんとか勝ったけど、これで納得できるわけではない」と率直に伝え、宇佐美貴史は「うちの課題としては、あれだけ回されたので、いかにボールを保持し返すか。あのまま守りきってもいいんですけど、それだとチームとしての伸びしろがないし、個人的にもチームとしてもやりたくない。どっちかというと、今日の相手がやっていたような、ボールを保持して、いろんなアイデアを出して、全員のボールタッチが多く、というスタイルでやりたい」と話した。

そして昨季MVP仲川輝人を抑えた藤春廣輝は、「もちろんほかの試合も集中しますけど、仲川選手とマッチアップするときは90分間、一瞬たりとも集中を切らせないです。気を抜けないので、けっこうきつかった」と振り返り、守備の要の三浦弦太は「マリノスのように、自分たちがボールを保持しながら、押し込んでいく。うちもチームとして、盛り込んでいきたいところです」と言っていた。

群雄割拠のJ1、連覇は容易ではない。
昨季とは逆に、開幕戦で同じ相手に1点差で競り負けたマリノス。監督が指摘した「なまり」が解消され、チューニングが合うようになれば、ライバルたちが警戒するあの爽快なアタッキングスタイルが蘇り、また目にも留まらぬ速さで走り出すのだろうか。

ひとつだけ確かなのは、群雄割拠のJリーグを連覇するのはどんなチームにとっても容易ではないということだ。

リンク元

Share Button