2つのプランで天皇杯決勝進出を決めたガンバ大阪は川崎Fに雪辱を果たすことができるのか?

ボール支配率でJ2王者の後塵を拝した。放ったシュート数でも13対15で上回られた。それでも後半に2ゴールを奪い、守っては徳島ヴォルティスを零封。最後に笑ったのはガンバ大阪だった。

ホームのパナソニックスタジアム吹田で27日に行われた天皇杯準決勝。J1リーグ2位のガンバが思い描いた通りの試合運びで2-0の快勝を収め、もうひとつの準決勝でJ3リーグ王者ブラウブリッツ秋田を一蹴した最強軍団、川崎フロンターレが待つ元日の決勝(国立競技場)へ駒を進めた。

例えるなら「肉を切らせて骨を断つ」となるだろうか。古巣を率いて3年目で初のタイトル獲得へ王手をかけた、宮本恒靖監督が勝利を総括した言葉の一部を聞けば、自分自身も傷つく覚悟の上で相手により大きな打撃を与えることわざを、ガンバがしたたかに実践していたことがわかる。

「しっかりとボールを動かしてくる特徴をもつチームなので、全体として徳島にある程度ボールをもたれてもいいという話を試合前のミーティングで選手たちにも伝えました。その意味では、守備の時間が長くなることも含めて、プラン通りの試合展開だったと思っています」

来シーズンから浦和レッズを率いることが発表されている、スペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督が4年もの歳月を注いできた徳島は、キーパーや最終ラインから丁寧にパスを繋いで攻撃を組み立てるスタイルを確立。J2制覇と7シーズンぶりのJ1昇格を決めた勢いに乗って、準々決勝から登場した天皇杯初戦でもJFLのHonda FCに快勝して初体験となる準決勝に臨んできた。

ただ単にボールを持ち続けるだけではない。対戦相手や状況によって4バックと3バックを、前線からアグレッシブにボールを奪い返す時間帯と自陣にリトリートするそれとを巧みに使い分け、J2リーグで2位となる総得点67、同じく2番目に少ない総失点33と攻守のバランスもいい、来シーズンのリーグ戦で顔を合わせる徳島へ、宮本監督が授けたプランはもちろん守るだけではなかった。

「相手がビルドアップしてきたところでボールを奪って速く攻めていくプランと、相手が構えているなかで崩していく2つのプランを用意していました」

ボール支配率で徳島の後塵を拝し、例えピンチを招いたとしても守護神の東口順昭や、キャプテンのDF三浦弦太を中心に粘り強く守る。要は「肉を切らせる」という我慢の展開と、その上で「骨を断つ」ための筋道、つまりゴールを奪うための青写真を選手たちが鮮やかに具現化した。

後半8分の先制点は徳島のビルドアップ時に照準を定めていたダブルボランチ、小西雄大からキャプテンの岩尾憲への縦パスがわずかにずれた瞬間から生まれた。MF矢島慎也がボールに突っかけ、パスを受けたFW渡邉千真が素早く右へ展開。MF小野瀬康介のクロスにMF倉田秋がボレーを放ち、こぼれ球をめぐって生じたゴール前の混戦からFWパトリックが執念で押し込んだ。

押し込みながらも先に失点した徳島の足が止まりがちになり、入れ替わるようにガンバ本来のパスワークもさえてくる。同37分には右サイドを細かいパスで崩し、パトリックのスルーパスに抜け出した途中出場のMF福田湧矢が、ファーストタッチでダメ押し点となる追加点をもぎ取った。

2つのプランがともにゴールへ結びつく会心の勝利を、宮本監督は「今シーズンやってきたものが今日も出た」と、現役時代と変わらない冷静沈着な口調で振り返った。指揮官が言及した「やってきたこと」とは、かつての看板だった打ち合い上等の超攻撃的スタイルから試合巧者への変身となる。

今シーズンのJ1リーグで2位に入り、新型コロナウイルス禍による変則開催のもとで準決勝から登場できる天皇杯と、来シーズンのACL出場権をそれぞれ獲得。先のJリーグアウォーズで宮本監督が優秀監督賞に輝いた戦いを振り返ると、従来のガンバにはない数字が浮かび上がってくる。

手にした20個の白星のうち、ボール支配率、シュート数の両方で対峙したチームの後塵を拝している試合が実に「16」を数える。しかも、そのうちの「10」が1点差勝利だった軌跡からは、ブロックを作って守備に比重を置く時間帯が増える状況を厭わずに、我慢を合い言葉にしたゲームプランのもとで相手を焦らし、疲れさせ、数少ないチャンスを確実にゴールに結びつけてきたことがわかる。

この日の準決勝でも徳島のストロングポイントを認めた上で、試合の主導権と引き換える形で、チームが一丸となって思いをシンクロさせて勝機を見出した。5大会ぶり7回目の決勝行きの切符を、攻撃陣の中心を担うFW宇佐美貴史は大きな手応えとともに受け止めている。

「今年チームとしてやってきたことを、なぜ自分たちは(リーグ戦で)2位に入れたのか、というところを見返してみると、決して綺麗ではないですけど粘り強く、本当にギリギリのところでみんなで踏ん張って、勝ち点を積み上げてきたことが大きな要因だと思っています」

来シーズンからセレッソ大阪を率いる、ブラジル出身のレヴィー・クルピ監督に率いられた2018シーズンのガンバは、一時は最下位に転落する不振に陥った。同年夏に急きょ就任した宮本監督に再建が託されるも、2015シーズンの天皇杯を最後に遠ざかっているタイトルには手が届かない。

ただ、今シーズンの陣容を見れば、好パフォーマンスを発揮し続ける東口がゴールマウスに君臨し、三浦、キム・ヨングォン、徳島戦は欠場だった昌子源と高さ、強さ、濃密な経験を兼ね備えたセンターバック陣が揃っている。だからこそ、現役時代はガンバおよび日本代表の最終ラインを担った宮本監督をして、お家芸だった往復ビンタの張り合いのような戦い方からの転換を決意させた。

ボールポゼッションを捨て去るような戦い方は、特に後半戦に入って顕著になってきた。改革の過程でガンバの伝統を担ってきた、レジェンドのMF遠藤保仁がJ2のジュビロ磐田へ期限付き移籍する痛みも伴った。しかし、ボール支配率とシュート数の両方で相手よりも下回る条件がそろいながら、唯一、勝利を手にすることができなかった90分間をガンバは11月25日に味わわされている。

川崎のホーム、等々力陸上競技場に乗り込んだ明治安田生命J1リーグ第29節。一瞬の隙を突かれて前半22分に先制点を、セットプレーから同終了間際に追加点を奪われたガンバは、前へ出ざるをえなくなった後半にカウンターからさらに3点を追加されてしまった。

攻撃陣も後半26分まで1本のシュートも放てなかった、0-5の大敗を喫した末に目の当たりにさせられたのは、4試合を残す史上最速のリーグ優勝を決めて歓喜する川崎の選手たちの姿だった。

「あの試合は本当に悔しかったし、目の前で優勝されたことも含めて、自分たちを奮い立たせるには十分すぎるほどの材料だと思っている。何としても川崎に勝って、借りを返したい」

頂上決戦で先発しながらシュート数0のまま後半24分にベンチへ退いていた宇佐美は、2021年の幕開けにめぐってくるリベンジの舞台での戦い方を、徳島との準決勝の延長線上に思い描く。

「自分たちがボールを支配して綺麗にというよりは、ボールを支配されたなかでどのような戦いを見せられるか。そういう部分が川崎相手にはより試されるし、勝負のポイントになってくると思う」

ガンバは先制した試合で15勝3分けと、無敗をキープしてリーグ戦を終えている。元日決戦でもまずは先に失点しない試合運びだけでなく、ボールを失った直後に集団で、なおかつ敵陣で猛然と奪い返しにくる川崎の攻守の切り替えの速さもかいくぐっていかなければ勝機はつかめない。

その上で千金のゴールに絡む仕事を託されるのはパトリックであり、渡邉であり、リーグ戦の終盤で欠場を余儀なくされた故障からともに徳島戦で復帰した小野瀬であり、そして宇佐美となる。 「チームとして10個目のタイトルを取って、クラブとしても波に乗っていきたい」

宇佐美の意気込みが成就されれば、遠藤を欠いた陣容で初めて手にするタイトルを介してガンバの改革が加速される。迎え撃つ川崎も決勝が現役最後の一戦になるレジェンド、MF中村憲剛を勝って送り出そうとモチベーションを極限まで高める。注目の激突は元日の14時40分にキックオフを迎える。

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