G大阪アカデミー大黒将志コーチ、「点取り屋」の秘策は味方を知る

G大阪などで活躍し、06年ドイツW杯にも出場した元日本代表FWの大黒将志氏(40)が今年、G大阪アカデミーのストライカーコーチに就任。指導者としてのスタートを切った。現役生活22年で計12クラブに所属し、公式戦540試合で222得点を奪った自らが実践してきた「どこでも点を取れる方法」を後輩たちに伝授。ストライカー育成というサッカー界にとっても永遠の課題に、かつて日本中を沸かせた“大黒様”が真っ向から挑んでいる。

2005年にG大阪のリーグ初優勝に貢献し、その後も数々のクラブで活躍してきた大黒氏は、昨季限りで現役を引退した。そして今年から古巣・G大阪アカデミーで指導者としてのキャリアをスタートさせたが、その役割が「ストライカーコーチ」だ。

「ユース(高校生)とジュニアユース(中学生)で、G大阪のトップチームを目指してやっている子供たちの中で、FWを中心に指導しています」

サッカーでは、GKコーチを除くとポジション別の専門コーチは珍しい。近年は各ポジションにスペシャリストの指導者が必要だという考え方も強まっているが、日本代表経験者がポジションを限定したコーチに就任した例は多くない。大黒氏は“引退ホヤホヤ”の自らにしかできないスタイルで、子供たちと接しているという。

「一緒にシュート練習したり、走ったり。ゲームにもたまに入ります。そういう中で気づいたことを教えています。選手目線もなくさずに。僕はゲームに出たら点を取るんで。その上でアドバイスすると、選手も納得して『これだけ点を取れる人に言われるんだから、やってみよう』と成長が早まる部分があるので。だからしっかりプレーできるように、トレーニングはしています」

FWとして点を取ることに特化してきた大黒氏は、自身が得点し続けてきた“秘策”を教えている。J1でもJ2でも、チームが変わってもコンスタントにゴールを奪い続けてきた理由の一つが「味方を知る」能力だったという。

「僕はどうすればゴールになるかを、チームメートの力を見極めて、逆算する能力が高かったと思うんです。だから味方のことをよく観察していました。味方がどういうことができて、どういうことをできないのかを知っておく。敵は(内容を)知らないじゃないですか。僕はそれを考えながら動き出せるんで」

G大阪や日本代表など、レベルの高いチームでプレーする際は、自身のタイミングで動き出せばパスが届いた。しかしそれは、どのチームにも当てはまるわけではない。チームの中でラストパスを出せる選手はだれか。利き足だけか、逆足でも出せるのか。相手DFがどのぐらい離れていれば出せるのか…。レベルの異なる数々のチームを渡り歩く中で「味方を知る」能力を高めてきたという。

「ずっとG大阪にいたら、ほかでは点を取れんかったんちゃうかな。いろんなところに行って自分の能力を上げたから、進化してどこでも点が取れるようになったと思っています。論理的に、どうすれば点が入る、というのが分かるようになったから、人にも教えられるというか。適当に教えたら、えらいことになると思うんですよ。責任があるので。僕が理解していることを教えていますよ」

最後にプレーした2019年も栃木でチーム最多の6ゴールを挙げた。栃木退団後も昨年は“浪人”として現役続行の道を模索した。指導者として第二のサッカー人生を踏み出すことを決断し、今年1月に行った引退会見でも「やり残したことはないですけど、もっとゴールしたかった」と未練ともとれる言葉があった。しかし今は、考えに変化が生まれたという。

「いつでも(選手は)やりたいけど、今は同じくらい、子供たちがうまくなってくれるのがうれしい。僕が(練習で)結構点を入れるんで。そうなると、子供たちもムキになるんですよ。負けたくないから。そうなると良くなっていくんですよ。いい相乗効果が出ていると思っています。アイデアを与えられるように、僕もしっかりとプレーできるようにやってますよ」

サッカーでは現役引退を「スパイクを脱ぐ」と表現することがある。ただ大黒氏は、引退してもまだスパイクは脱いでいない。ストライカー育成という新たな目標に向かい、今もゴールを奪い続けている。

◆大黒 将志(おおぐろ・まさし)1980年5月4日、大阪・豊中市生まれ。40歳。G大阪ユースから99年にトップ昇格。札幌への期限付き移籍を経て、復帰したG大阪で03年から3年連続の2けた得点。05年のリーグ初優勝に貢献し、翌年フランス2部のグルノーブルへ。イタリア・セリエAのトリノでもプレー。08年に東京VでJ復帰し、横浜C、F東京、横浜Mに所属。13年に中国1部の杭州緑城へ。14年に京都へ加入し、26ゴールでJ2得点王。その後も山形、栃木でプレーし、20年限りで現役引退。日本代表では05年のアジア最終予選・北朝鮮戦で、後半ロスタイムに決勝ゴールを奪い「大黒様」フィーバーに。06年ドイツW杯にも出場。J1通算204試合69得点。J2通算260試合108得点。日本代表通算22試合5得点。178センチ、71キロ。

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