結論まで3分10秒…広島vsG大阪の“ノーハンド”介入はなぜ? JFA審判委がVAR関連6事例を解説

今月3日に開催されたJ1第7節のサンフレッチェ広島対ガンバ大阪戦では、ペナルティエリア内でのハンド疑惑をめぐって、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)による再確認のため試合が一時中断した。日本サッカー協会(JFA)の扇谷健司委員長が22日、オンラインブリーフィングでこの事象の経緯を説明した。

■中断まで1分15秒、結論まで3分10秒  発端は前半23分、G大阪の右コーナーキックの場面。FWチアゴ・アウベスが蹴ったボールをMF倉田秋がそらすと、広島のMF青山敏弘がペナルティエリア内でブロックする際、ボールが右手に当たった。G大阪の選手たちはすぐさまハンドのアピール。しかし、佐藤隆治主審はプレーを続行させ、両チームがそれぞれ攻撃を繰り返した1分15秒後、G大阪のボール保持時にホイッスルを吹いて試合を中断した。  

試合が中断されたのは青山にハンドがあったとして、VARが佐藤主審にレビューを求めたため。オンラインブリーフィングで公開された一部音声には「(G大阪の選手は)手に当たっていると言っているけどわからない!」「(青山の腕が)広がってるよね?」というやり取りが収録されていた。佐藤主審はオンフィールドレビューを実施。それでも青山の手に当たってから時間にして3分10秒後、ハンドの反則はなかったと認定し、ドロップボールから試合を再開した。

■介入したが、判定は変わらず…  

VARは原則「はっきりとした明白な誤り」に介入する仕組みのため、「レビューを行ったにもかかわらず、もとの判定は覆らない」という流れは制度に相応しいものではない。それでもJリーグでは今季、同様の事案が5度にわたって発生。欧州主要リーグでも一定の割合で起きており、VAR制度が持つ課題と言える。

 扇谷副委員長はこうした事象について「レビューをしなければいいじゃないかという声もあると思いますし、そこも含めて一つの課題感がある」と説明。ハンドの有無を判定する際の大きな判断基準となる「腕が広がっていたかどうか」を例に出し、次のように結論づけた。

「VARは不自然に広がっている手にボールが当たっているという事実を確認したが、主審は手にボールが当たっている事実はあるものの、手が不自然に広がっているとは言えず、直前で他の選手にもボールが当たっているため避けることが不可能な接触と判断し、判定を変えませんでした。どちらも正しい手順の中で行われた事象です」。

■「見逃された重大な事象」  

相応しい流れではないながらも「正しい手順」とされた背景には、「はっきりとした明白な誤り」と並ぶもう一つのVAR介入基準「見逃された重大な事象」という観点がある。主審の視野に複数の選手が重なっていたりするなど、当該シーンを視認することができなかった場合に使われる基準だ。  

扇谷副委員長は「見えなかったものに関しては、はっきりとした明白な誤りに比べて、VAR介入のバー(基準)が下がる。今回は主審が見えていないということが音声から分かっていて、VARの決断で介入した。介入の基準が少し違う」と基準の違いを説明。「もちろんなんでも拾いに行くわけではなく、“重大な事象”に限る」としつつ、「試合を決定づけるものには介入してくれと伝えている」と基準を示した。  

なお、この場面で佐藤主審はスローモーションではなく、ノーマルスピードで映像を確認していた。これも「手に当たったかどうか」ではなく「不自然に広がっていた手に当たっていたか」を確認するための正当な手続き。扇谷副委員長はこの事例について「(主審とVARが)いずれもベストを尽くした結果」と総括した。

■ブリーフィングでは6事例を解説  

この日のメディアブリーフィングでは、扇谷副委員長が上記の事例の他、5つのケースを映像と音声を用いて解説した。

①J1第2節 横浜F・マリノス対サンフレッチェ広島  

前半27分、広島がMF青山敏弘のFKを起点に波状攻撃を仕掛け、最後はこぼれ球をDF東俊希がゴールに押し込んだ場面。ボールが前に送り出されるたびにオフサイドの疑いがあり、一連のプレーで6度のチェック項目が続いたというが、結果的には副審のオンサイド判定が正しかった。  

それでも結論を出すまでに1分半がかかり、ビデオ・オペレーションルームでは「かなりタイトだからちょっと時間ちょうだい!」「当たっている証拠がないからわからない」と熱い議論が交差した。扇谷副委員長は「1分半かかっているが、これだけのチェックをするのは大変。スムーズにできた例」と振り返った。

②J1第4節 横浜FC対セレッソ大阪  

後半10分、横浜FCのFWジャーメイン良がゴールを決めた場面。3つのオフサイドチェックを経て得点が認められたが、天候不良により無線機が使えなかったため、VARと第4審がトランシーバーで交信することで最終確認をしていたという。  

今季のJ1リーグで2度起きたというこのトラブルを振り返った扇谷副委員長は「テクノロジーが不具合を起こしている時はこうした対応を迫られることがある。今までレフェリーがトランシーバーを持つことはなかったが、VARのいる試合ではこういったことも求められる」と説明した。

③J1第3節 サガン鳥栖対ベガルタ仙台  

前半5分、鳥栖がDFエドゥアルドの縦パスをFW林大地がフリックし、FW山下敬大が正確なトラップからゴールを決めた場面。副審はオフサイドフラッグを上げたが、VARオンリーレビューで判定が覆った。ここでは3分間にわたる中断があったが、「どこでボールを触ったか」の確定に時間を要した様子。扇谷副委員長は「チェックに時間を要してしまうのは大きな課題として捉えています」と述べた。

④J1第8節 横浜F・マリノス対セレッソ大阪  

前半10分、C大阪がDF松田陸のクロスからFW松田力がポストに当たるシュートを放ち、跳ね返りをFW豊川雄太が押し込んだ場面。オフサイドディレイを行っていた副審は旗を上げており、松田力のオフサイドを正しく判定した。扇谷副委員長はオフサイドディレイを経てのノーゴール判定が今季10事例あったと明かした。

⑤J1第7節 アビスパ福岡対北海道コンサドーレ札幌  

後半19分、福岡がDF志知孝明のクロスからFWフアンマ・デルガドがヘディングシュートを放ち、GK菅野孝憲がスーパーセーブを見せた場面。ゴールの有無が際どい場面だったが、プレーを続けながら主審とVARが「シュートのところですか?」「そうです、ヘディングシュートのところです」「分かってる大丈夫」とコミュニケーションを取りつつチェックし、ゴールライン横のカメラでノーゴールが確認された。

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