「相手を怖がらせる攻撃を」大阪ダービーで注目すべきガンバ宇佐美貴史の“剥がす力”

鳥栖戦の決勝点の舞台裏。「けっこう慌ててはいた」

Jリーグを配信中のDAZNでは、2021年4月29日~5月16日を「RIVAL WEEKS」と題し、ダービーやライバル関係にあるチーム同士の一戦となる19試合を対象に、様々な企画を実施している。

なかでも注目なのが、セレッソがガンバをホームに迎える大阪ダービーだ。サッカーダイジェストWebは、両チームのキーマンにインタビューを実施。ガンバでは、今季5試合目にして待望のシーズン初勝利を掴んだサガン鳥栖戦で、値千金の決勝点を挙げた宇佐美貴史に話を訊いた。10代の頃からライバルとの一戦の重要度を叩き込まれてきたアタッカーが、伝統の“大阪決戦”に懸ける想いや現在のチーム状況について語ってくれた。

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『DFはどっちから戻ってきてる? 左の後ろ側から回り込んできているか、左のCBも出てきたから、トラップでボールはここにしか置けない、ニア上を狙うか、いやアカン逆や、こっちの選択と朴一圭選手の対応はことごとく当たるから、遠いほうにしよう、朴選手は苦手だけど良いキーパーだし、早いテンポで打たないと』

福田湧矢からのグラウンダーのパスを受けてシュートに至るまでのわずか数秒の間、宇佐美貴史はそんなふうに考えていたという。トラップした右足でそのまま一振り、逆サイドのネットを揺らした。映像を見返してみれば、実にスムーズかつ冷静なフィニッシュに見える。だが実際は「けっこう慌ててはいた」と明かす。

その場の状況や過去のデータを照らし合わせて、即座に最適解を導き出す。「パッと一瞬で考えているから、ちょっとパニックになっている」。福田から良いパスが届いた、さてどうする――混乱しているが、混乱している暇はない、考えをすぐまとめて行動しなければならない。ゆえに「パニックになっていることを忘れている」のだという。

その結果、件のファインゴールは生まれた。「どうしよう、どうしようという感じではあったんですけど、気づいたら、ちゃんとあそこに(決められた)。瞬時に判断して、選択できたのは良かった」と振り返った。

「こういう性格やからって認めてしまった部分もある」

4月14日に前倒しで開催されたJ1リーグ第18節、サガン鳥栖対ガンバ大阪の一戦は、1-0でG大阪が競り勝った。勝利の立役者は、福田のアシストから決勝点をマークした宇佐美だ。

この鳥栖戦を迎えるまで、G大阪は4試合を消化して2分2敗、0得点・2失点という成績だった。鳥栖戦で宇佐美はチームの今季“初得点”を挙げ、“初勝利”に導く。殊勲のアタッカーは「今日ひとつ、少しだけ報われたと思います」と安堵した。

チームとしても、個人としても、思うような結果を残すことができずにいた。「俺がやらな、俺がやらな」と強い責任感と向き合いながら、「他のことも考えられないぐらい」悩む日々が続いていた。

もっとも、宇佐美にとってそれはある意味、ノーマルなことでもある。基本的には、日常生活でも常にサッカーのことを考えている。ただし、良い結果が出てくれば思考もポジティブになっていくが、悪い結果が続けばストレスの度合いは強くなっていく。

「だから、サッカーをしていない時間は辛いですね。サッカーをしている時は忘れられるけど、サッカーをしていないと、どうやって現状を打開すればいいかを考えるから、やっぱりしんどくはなってきます」

それでも、宇佐美は考えることをやめない。そうした作業は今に始まったことではないし、「想いをずっと強く持ち続けていないと、運とかも引き寄せられない気もする」からだ。

「結果が出ても、出なくても、考え続けて、苦しくなろうが、そういう自分は認めてあげよう、と。考え過ぎることに悩んでいるわけではないです。こんな自分、嫌やってなっているわけでもない。もうしゃあない、こういう性格やからって認めてしまった部分もある」

悔しい気持ちも、イライラも、そういった感情もすべて受け止める。それを「充電していくというか、貯蓄していっているようなイメージ」で、パワーに変換していく。

自己嫌悪に陥る時もある。家族との会話や笑顔が少なくなったりする時もあるが、「サッカーで悩めていること自体、幸せなこと」だと考える。

「能天気に与えられたものだけをやっているプレーヤーにはなりたくない」。だから、いくらしんどくても、考えることは放棄しない。「そういう性格が自分を苦しめようと、それでい続けようと思っています」。

肝は「ポゼッション」と「個の打開」のメリハリ

そんな宇佐美だからこそ、自らのプレーはもちろん、チームとしてピッチ上で何が表現されているかを見極めて、何をすべきかのビジョンをしっかりと頭の中に描くことができている。

「今年はキャンプからボールをしっかり保持したなかで攻撃していくというテーマを持ってやっています。ただ、そこに意識が行き過ぎて、ボールが“パスで動くだけ”になっている部分は、(0-2で敗れた直近の)名古屋戦で感じていました」

改善策としては、局面や要所で個の打開を増やすことだ。「ボールを保持しているのは、個で打開しやすいように、そういう局面を多く作れるように保持しているわけで」と宇佐美は言う。自身も含めて、もっとトライすべきだと考えている。 「2、3人抜けってことではなくて、たとえばバイタルのところで受けて、ファーストタッチでひとり剥がすことも、小さな打開。そういう局面でのちょっとした打開が連続して生まれてくれば。

自分もパスでボールを動かすだけでなく、打開するプレーを入れていくことで、数的優位もどんどん作れる。それはチームメイトにも伝えていきたいし、打開や突破が増えてくれば、またもっと違う迫力あるスピーディな攻撃になっていくと思う」

5月2日に予定されているセレッソ大阪とのダービーでは、課題の攻撃面でレベルアップした姿を見せられるか。手堅い守備はチームの強みである一方、攻撃は今ひとつ、力強さを欠いているのが現状だ。

「攻撃に出ていく時に、もっと人がどんどん溢れ出てくるような枚数のかけ方をしないといけない。押し込んだなかで、良い立ち位置で、個人での打開やコンビネーションを増やしていかないと、相手を怖がらせるような攻撃はできないと思う」

G大阪と同様、堅実な守備力には定評あるC大阪に勝つためにも、どれだけ厚みのある攻撃を繰り出せるかはひとつのポイントになる。ボールを握れる展開となれば、相手の堅い守備を前に攻めあぐねるような状況になっても、焦れずに、集中力を切らさずに、ポゼッションと個の打開のメリハリをつけながらゴールをこじ開けたい。

「大きな喜びと幸せを与えたい」

「リーグ戦の中の1試合という感じではない」

13歳からG大阪の下部組織で育ち、“セレッソには負けたらアカンぞ”と叩き込まれてきた宇佐美にとっても、C大阪とのダービーは特別な一戦だ。ライバルに勝てば、その後の戦いもさらに勢いがつくはず。「本当に大事な、試金石というか、乗っていけるかいけないかを左右する試合なのかなと思います」とその重要度を語る。

どんなバトルになるかを想像すれば「正直、分からない」。ただ、決戦に向けて良い感触を掴んでいるようで、モチベーションも高い。

「練習のフィーリングも良いし、ここまでの結果を踏まえて、その悔しさとか、修正点がいろいろ見えてきたなかで、それを最初にセレッソにぶつけられる。面白い試合にしたいし、無観客でアウェーですけど、勝ってみんなで笑顔で終わりたい」

いつもチームを後押ししてくれているファン・サポーターへの想いもある。

「僕らは勝てていなくて、フラストレーションは溜まっていますけど、応援してくれている人たちは、その何倍ものフラストレーションを溜めていると思う。もちろん、セレッソに勝ったら、それをすべてチャラにできるとは思わないですけど、応援してくれている人たちに、大きな喜びと幸せというものを与えられるはず。

監督からも常々、そういうものを与えていかないといけないと言われています。それをひとつ実現させられる大きなチャンスでもある。リスペクトすべき良い相手でもありますし、だからこそ、勝って、笑顔でこっちに帰ってきたいですね。そういう試合になるように頑張っていきたい」

鳥栖戦で決勝点を挙げた宇佐美は、満面の笑顔を浮かべピッチ上でチームメイトたちと喜びを分かち合った。ファン・サポーターも再びゴールを、そして大阪ダービーで勝利を喜ぶ宇佐美の笑顔を見たいと思っているはずだ。

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