【J1分析】湘南対G大阪「パトリックと宇佐美貴史」に見る“個の力”と“意思統一”の重要性
【明治安田J1リーグ 第19節 湘南ベルマーレvsガンバ大阪 2021年6月2日 19:03キックオフ】
この日のガンバの攻撃は、パトリックのポストプレーをきっかけに周りがディフェンスラインの後ろへ飛び出していく、という狙いだったはずだ。しかし試合開始すぐは良かったものの、パトリックにボールが入ったところを奪いどころにした湘南にそのプランを封じられてしまうと、そのままなす術なくペースを握られ続けた。
キム・ヨングォンと昌子源が不在となった最終ラインは東口順昭に牽引されて無失点を保つことができたものの、0に抑えることに注力し続けなければならない試合展開の中で意図的なパスやオーバーラップでチームの状況を変えようと試みる部分まで求めるのは酷だった。
ただし、日韓の代表センターバック2人存在が大きいのは間違いないが、最終ラインから全体への修正の働きかけ以外にもやりようはあったはずだ。
ペースを握られ続けてしまった原因の中には、中盤が幅を取って相手を引きのばそうとしないことや、サイドで追い越す動きをして相手を慌てさせようとしないこともあった。
次第にパトリックにボールが入る機会そのものが失われるようになり、明確な攻撃の形がない中で、宇佐美貴史は前線から自陣まで守備に走り回ることになった。
■状況に応じた動き方や約束事が共有されていない
井手口陽介は試合後、攻撃に対して「蹴るのか繋ぐのか、メリハリがしっかりできていない部分もあった」としただけでなく、守備に対しても「しっかりと行くときは行く、行かないときは行かない、という区別ができていなかった」とどちらも似た部分で問題があることを明言した。これは個人ではなくチーム全体の問題だ。状況に応じた動き方や約束事が共有されていないからそうなってしまう。
たとえば、宇佐美がどの位置でプレーできるのか、というのはガンバの攻撃の怖さに直結する。当然、高い位置で前を向かれてプレーされることが相手にとっては最も嫌なことだ。守備で深いところまで追いかけて来たり、後ろを向いてボールをキープされたりしても、面倒ではあるが怖くはない。
それはパトリックも同様だ。ポストプレーをされるだけならば、面倒ではあるが怖くはない。
かつて彼らが揃った試合で相手にとって最も脅威となっていたのは、パトリックが強引に前進したことで生じたスペースを宇佐美が利用してフィニッシュ、という個の強さの相乗効果があった部分だ。あの頃と全く同じ戦い方をやろうとしているわけではないが、互いの良さを出し合える状況を作ることが重要なのはいつでも変わらない。
■意思統一の弱さが欠点か
それは倉田秋や井手口、他の選手たちについてもそうだ。それぞれがどこでどうプレーすることが相手に最も個を強く感じさせるのか。そのために周りがどうするべきなのか。そこが全体でハッキリ意思統一されてピッチ上に表れない限り、強いチームに戻れないのではないだろうか。
もちろん、強さや上手さは今でもJ屈指であり、個で上回る場面はある。
宇佐美にエリア外からの精度とスピードのどちらも高いシュートでゴールを脅かされたり、パトリックやレアンドロ・ペレイラに強引に決められたりという一発の怖さは今でもある。しかしそれは相手からすれば、個人レベルでその1プレーだけ相手の方が上だった、と割り切るしかないもので、強いチーム、怖いチームと戦っている、という印象にはならない。湘南の浮島敏監督は試合後のインタビューの中で「全ての面で相手を上回った」と口にした。
どうすれば自分たちのストロングポイントを出せるかどうか。そのために個人ではなくチームとしてどう動いて支え合うべきか。徳島、横浜FCに連勝して復調したかに思えたガンバだったが、根本にある課題は変わっていなかった。
松波正信監督は改善していきたい部分を「3バックの距離感、前との距離感、あとはサポートの角度とか、いろいろな要素が。1人2人で回すわけではないので、関連したポジショニングというところ。いつしなければいけないのか、どこに行かなければいけないのか、どこを見ておかないといけないのか、という整理」と複数挙げた。正式に監督に就任した指揮官の下、後半戦に向けて地道に取り組み続けるしかない。
■試合結果
湘南ベルマーレ 0-0 ガンバ大阪