190センチ20歳の谷晃生が“たった2枠”の東京五輪代表を勝ち取るまで「ここで止まる選手ではないというのを見せる」
U-24日本代表の密かな激戦区で、東京五輪行きをつかんだ。
湘南ベルマーレのGK谷晃生である。
18歳でG大阪トップに昇格するも……
このチームが立ち上げられた2017年12月のタイ遠征に、当時17歳の谷は招集されている。同年3月にガンバ大阪U-23の一員としてJリーグデビューを飾り、同年10月開幕のU-17ワールドカップでレギュラーを務めていた。すでに188センチのサイズを持つ高校2年生は、将来性豊かなGKとして注目を集める存在となっていた。
翌18年には、高校卒業を待たずにG大阪のトップチームに昇格する。しかし、ロシアW杯日本代表のGK東口順昭は、谷でなくとも高い壁だっただろう。18年、19年ともにリーグ戦の出場機会は得られず、20年に湘南へ期限付き移籍する。
J1リーグへのデビュー戦は、リーグ戦6試合目で巡ってきた。それまで1分4敗と勝利のないチームに、シーズン初勝利をもたらす。この試合をきっかけに定位置をつかみ、20年はリーグ戦25試合に出場した。
「ベルマーレへ来るにあたって、『1年で見違えるほど成長できる』と言ってもらいまして、そのなかで東京五輪も視野に入ってくるという話もしていました。ただ、自分が本格的にそこへ向かって意識したのは、J1で試合にしっかり出るようになったことが大きいと思います」
期限付き移籍を延長した今シーズンも、開幕からゴールマウスに立ってきた。U-24日本代表では3月29日のU-24アルゼンチン戦で3対0の勝利に貢献し、6月シリーズでは5日のU-24ガーナ戦と12日のジャマイカ戦に連続で先発した。東京五輪のメンバー入りは順当と言っていいだろう。
「選ばれたからといって一切満足はない」
谷自身は気持ちを新たにする。
「湘南でやっているプレーが評価されて、それが間違いなく選出につながったと思います。選ばれてホッとした気持ちもありますし、それと同時にワクワクする気持ちもあります。選ばれたからといって一切満足はなく、より緊張感や責任感、覚悟を持ってやらなければいけないな、という気持ちもあります」
自らを奮い立たせるためのありとあらゆる感情が、190センチ84キロの恵まれた身体を駆け巡っている。同時に、選ばれなかったライバルにも思いを馳せる。
「18人のメンバーのなかでGKは2人で、バックアップメンバーの(鈴木)彩艶を入れて3人ですけれど、これまで多くの選手たちがここに入るために、オリンピックで活躍するために努力をして、お互いを高め合ってきた。(6月に行なわれた)最終の合宿メンバーは4人でしたけど、ホントにみんなをリスペクトしていますし、そういう選手たちの分ももっともっとやらなければいけない、という危機感も感じています」
もうひとりのGKには、大迫敬介が選出された。定位置獲得へ向かって最後の競争が繰り広げられるが、ライバル意識が先立つことはない。“共闘”を誓う。
「サコとはアンダー世代からやってきましたし、お互いに高め合ってここまで来ることができたのかなと思います。そういった部分では感謝していますし。どっちが試合に出ることになっても、絶対にお互いをサポートできる関係性なのかなと思います」
世界大会は2度目になる。インドを舞台とした17年のU-17ワールドカップで、谷はキャリアアップの糧となる経験をしている。優勝したイングランドとラウンド16で対戦し、PK負けを喫したのだ。
「間違いなくあの経験ができたことが、こうやって五輪のメンバーに選ばれることにもつながっていると思います。イングランドに負けた悔しさを持って、ずっとやってきましたし、あの試合を経て世界大会に出たい、そこで活躍したいという思いが、さらに強くなったというのはあります」
「ここで止まる選手ではないというのをしっかりと見せる」
190センチのサイズがクローズアップされるが、セールスポイントは数多い。ハイボールの処理が安定しているのはもちろん、シュートストップも鋭い。守備範囲を広く持ってプレーでき、ポゼッションに関わることもできる。
「シュートストップやクロスボールの対応は長所だと思うので、オリンピックという大きな舞台でいかにアグレッシブに、強気にいけるか。これからもっともっと大きな舞台でやりたいと思っていますし、そこを目ざすためにはここで止まる選手ではないというのをしっかりと見せる。そんなプレーをしたいです」
日本代表で不動のレギュラーとなっているセンターバックの吉田麻也、右サイドバックの酒井宏樹、ボランチの遠藤航がオーバーエイジで加わり、同じく日本代表でポジションを確保しているCB冨安健洋が合流した守備陣は、歴代の五輪代表でも屈指の陣容と評価される。守備は計算できるとの見立てが広がっているなかで、GKの働きぶりこそが上位進出の必要条件と言っていい。GKがチーム全体に安心感をもたらすことで、DF陣は積極的な対応ができ、攻撃にも加わっていける。
チームが目標とするメダルを獲得するには、2週間強で6試合を消化しなければならない。酷暑も想定される。選手を使い分けていっても、消耗は避けられないだろう。勝点や勝利を引き寄せるプレーが、GKには求められるはずだ。
6月シリーズの起用法とパフォーマンスから、谷はスタメンに近いと見られる。つまりは東京五輪におけるキーパーソンと言っていいのだ。
あくまで東京五輪は「通過点」である
「東京で開催されるのが決まったときに、絶対に出たいという思いが生まれて、自分のなかで大きな目標としてやってきました。そのなかでも、いつもどおりにやるだけですし、いいポジションをとって、相手選手の特徴をつかんで、どういうプレーをするのかという予測を持ったなかで、自信を持ってアグレッシブに自分らしくやれたらなと思います」
20歳の谷にとって、東京五輪は通過点である。ただ、短期集中のこの大会でどんなパフォーマンスを見せるのかは、その後のキャリアにも影響を及ぼしていく。
「最終的な目標はワールドカップで優勝すること」と話す湘南の守護神は、情熱を燃やすその時を待つ。