「収穫しかない」敗戦から何を学ぶか。G大阪ユースを率いる森下仁志監督は「気付かせて、変わるのを待つ」

[7.4 プレミアリーグWEST第9節 G大阪ユース 1-3 鳥栖U-18 OFA万博フットボールセンターB]

試合が終わってから30分近く経っても、そのミーティングの輪は解けなかった。静まり返った夜のフィールドに、熱のこもった指揮官の声と、虫の音が混ざり合う。

「結局技術があっても、戦術眼があっても、判断力があっても、それを動かすのは“心”だから。自分が見た物をどう捉えて、どう判断して、どう動かすかなので、逃げたりとか、受けたりとか、そうしていたら自分の技術は絶対ブレるんですよ。アイツらが全然ダメだったかと言ったら、そんなことはまったくないけど、勝負事で考えたら、みんな甘い。でも、あの強度でやれたのがとても嬉しかった。そういうので選手って覚醒していくから。一番良い相手が、一番良いタイミングで来てくれたんだと思いますけどね。これからクラブユースでも、もう一回彼らと当たるかもしれないですし、結局それで選手の成長ってわかってくるから、そういう意味で感じるものは多かったと思います。収穫しかないですよ」。

今シーズンからガンバ大阪ユースの指揮官を託された森下仁志監督は、真剣にこのチームを変えるため、自分の持つものをすべて捧げる覚悟で、選手たちと日々向き合っている。

プレミアリーグWEST第9節。サガン鳥栖U-18をホームに迎えた試合は、1-3で敗戦。リーグ戦4試合目にして、初黒星を喫することになる。「最初から相手にペースを握られて、何もできなかったというのが印象です。ここまで3連勝したんですけど、今日はそんなことは関係なくて、悔しかったです」。キャプテンマークを託されたMF浅野直希(3年)は、唇を噛み締めながら、そう言葉を紡ぐ。

「結局サッカーってやりたいことと、やるべきことがあるから、鳥栖の選手たちはやるべきことを徹底していましたよね。やっぱり向かってくる相手に一瞬でも怯んだ姿を見せると、勝負事って転がってこないから。向こうのベンチの声を聞いていても、なかなかこのあたりの子にはない雰囲気を持っていて、ああいう部分で自分たちの感情が揺さぶられて、自分たちで試合を難しくして、と。まだまだ未熟ということですよ」。森下監督はそう言い切る。やりたいことと、やるべきこと。この2つの違いは、似ているようで非なるもの。とりわけ後者の部分に、相手との差を感じていた。

「自分の感情をコントロールして、サッカーをしている選手が少な過ぎたなと。(坂本)一彩とか(三木)仁太はやれていたけど、他のヤツは周りの声とか、相手の圧力とかに揺さぶられていますから。ちゃんとやったら後半15分以降の、あの攻勢の時間帯になる訳で。でも、良い時は誰でもやれるから。サッカーって90分通じてずっと主導権を握るってなかなか難しいし、最初の10分や15分で相手が殴りに来たら、殴り返しに行かないと、一生南米の選手とかには勝てない訳ですよ。だから、選手には『覚悟が足りない』って言いました。みんな『トップ昇格したい』と言うけど、『昇格してからどうするの?』という話で、ウチなんか負けちゃいけないクラブだから」。

浅野は指揮官から、自分たちへの想いと、サッカーに対する想いを、敏感に感じ取っている。「仁志さんはものすごく良い監督で、僕らに持っていないものを持っていますし、戦術的にも凄く教えてくれますし、今まで勝ててきたのは仁志さんのおかげだと思います。熱血でありつつ、戦術も凄く理に適っているので、そこは凄いなと思いますけど、仁志さんがいろいろなことを言った所で、オレらが変わらないとダメなんですよね」。

逆に森下監督も、選手たちの『変わりたい』という想いを、十分に察知している。「今日の負けをどう捉えるか、ですよね。負けたことは悔しいけど、誰も手を抜いていないし、一生懸命はやっているから。でも、甘いんですよね。それに気付かせなきゃダメなんですよ。気付かせて、変わるのを忍耐強く待つと。だから、結局オレらは選手を育てるなんておこがましくて、“気付かせる”ことができれば、彼らが自分たちで巣立っていく訳だから、こうやって叩かれて、叩かれて、この経験を彼らがどうしていくか。だから、オレはとても良い負けだったと思います。鳥栖にお礼を言いたい。鳥栖は素晴らしかった。でも、あれを覆すというか、最低限としてあのパワーがあったら、絶対にウチは勝てると思うので」。

「この1年で変われることは間違いないですし、正直自分としてもまだまだ全然成長できていない感じはあるので、この1年は仁志さんのためにも頑張ろうと考えています。もう今年が、人生の分岐点と言っても過言ではないと思います」。浅野は理解している。自分たちに足りなかったものを、この監督と、このコーチングスタッフが与えてくれることを。その上で、最後は自分たちがやるしかないことも。

「オレはU-23の時に変化する選手を見ているから、(食野)亮太郎だってそうだったし、結局彼らはものすごく賢いから、気付いたら早いんですよ。だから、オレとしては今日の試合も嬉しかった。自分だけの力じゃなかなか気付かせてやれないから、やっぱり敵がいて、敵から学んで気付くというのは大事なことで。でも、本当に鳥栖は良いチームでしたね。本質を外していないから、あれだけアカデミーから選手が出てきて。自分もOBとしては(笑)、アレを続けてもらいたい。でも、ウチはそれを上回れるポテンシャルはあるから」(森下監督)。

今年からユースのコーチ陣に明神智和大黒将志という2人のワールドカップ経験者が就任。「2人とも素晴らしいですよ。早く監督の座を空けないといけないですね」と笑う森下監督を筆頭に、クラブOBが集結して青黒の若き逸材たちと時間を共にしている。そして、もちろん自分たちが在籍したクラブの今後を、彼らは真剣に考えている

「これから目指す所はやっぱり監督ありきじゃなくて、ウチのアカデミーの選手がたくさんトップに上がって、その選手たちを生かす監督は誰だという流れに持っていったら、クラブもものすごくわかりやすくなると思います。今はトップチームでポジションを取っているアカデミーの選手も少ないし、(宇佐美)貴史も30歳になるし、倉田秋も30歳を越えているし。だから、責任重大です」。

「ただ、面白いし、幸せですよ。やっぱりこれぐらいの選手たちとやれるチャンスはなかなかないし、こんな出会いもなかなかないし。だから、それを大切にしないといけなくて、瞬間瞬間で全ての力を出さないといけない。ウチのヤツらはこの“風景”で6年間ずっと通ってきていて、これが当たり前だと思っている。でも、当たり前じゃないから。このスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)を作るのにどれだけ苦労したか。30年掛かって、どれだけの人が汗を流して、と。そういうことを1つ1つ教えながら。やることがいっばいあって楽しいです(笑)。さっきも『4万人の人に「次もこのサッカーを見たいな」なんて思わせられるか?』って言いました。『今のオマエらじゃ、次は来てくれないよ』と。俺はそういうクラブにしたいなと思って、アカデミーの仕事を受けさせてもらいましたから」(森下監督)。

確実にスタートを切った、森下監督の青黒改革。「みんな変わりつつはあるので、これからを楽しみにしてもらいたいですね」。彼らの大きな挑戦は、若き有望なつぼみをそれぞれの色の花として、力強く開かせていく可能性を十分に秘めている。

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