日本代表復帰!「日の目を見ない」鎌田大地がドイツで愛された理由

鎌田大地と長谷部誠の所属するフランクフルトがグラスゴーレンジャースを下しUEFAヨーロッパリーグ(EL)で優勝した。日本人選手としては2001-02シーズンに前身のUEFA杯を制した小野伸二以来の快挙だ。フル出場し、最後のPK戦ではキッカーを務め当然のごとく決めた鎌田は、ピッチでユニフォームに顔を埋めて号泣した。試合後にはこれまでの忸怩たる思いを吐露し、自身をこんな風に表現した。

「僕自身あまり日の目を浴びず難しいサッカー人生を過ごしてきてっていうのを思い出して。やっぱり本当にやり続けることは大事だなと思うんですけど、僕自身はどちらかと言うとまあそういう(日の目を見ない)星に生まれているというか、全く同じことをやっても全く違う見られ方する選手もいるし、どちらかというと僕は常にこうマイナスに見られてて。中学校の時も高校の時もそうだしプロに入った時もそうだし、(鎌田は)できないって思ってる人たちをこうやって見返すことができたと思います」

この日は試合の中で、決定機でループシュートを外しピッチに拳を叩きつけて悔しがるシーンもあり、試合後の様子やこれらのコメントのように、ストレートでこれまでの印象と全く違う鎌田が見られた。

◆ガンバのユースに昇格できなかった

鎌田はガンバ大阪のジュニアユースに入り、プロを目指したが、当時はまだ小柄で負傷も多く、同じ年齢の井手口陽介(現・スコットランド・セルティックFC)らより評価は低く、ユースへの昇格はならなかった。昨年11月以降、日本代表にも呼ばれなくなっていたが、優勝したELでは今季5ゴール。過去のゴールとあわせた通算11ゴールは、アジア人の中で歴代1位の記録で、結果は残し続けていた。

鎌田自身が「評価されていない」と感じるその理由と合致するのかはわからないが、ピッチ内外で全体的に分かりづらく、誤解を呼びやすいタイプであるように思う。

フランクフルトファンたちからも鎌田のプレーは、アンビバレントな気持ちで捉えられているようだ。Transfermarkt.deのコミュニティ欄を鎌田で検索すると、鎌田への嘆きと愛が伝わってくる。

<あの動きを見ているとイライラするんだけど、試合中1、2本はすごいパスが出てくるんだよね>

<あんなダラダラしてるんだったらいっそのこと変えてくれと思いながら試合を見るんだけど最終的には交代させなかった監督に感謝することになる。それが鎌田なんだ>

体を張ったプレーが好まれるドイツには、1対1の競り合いで勝った数のランキングもあり、(ドイツ語で『ツヴァイカンプフ』という)日本代表不動のボランチ、遠藤航(シュツットガルト)が2年連続で首位になった。

それに比べて、鎌田が優れているのは足元の技術。相手選手の寄せが早くてもワンタッチで正確にパスできる技術は、見方によっては効率的で、やる気がなく見えるようだ。だがそれでも、ブンデスリーガで4点、EL5点、加えて得点に表れない部分での貢献があり鎌田は欠かせない選手になっている。

ドイツで活躍した内田篤人さんの言葉

取材する側から見ても、とても取材しやすい対象とは言いづらい。愛想がない、内容のある話をしてくれるのだが声を張らないから聞き取りづらい。意味の分からない質問に対しては逆質問をする。もちろん分からないことを聞くのは当然ではあるのだが、適当にニコニコと答えてくれる取材対象も多い中で異質であり、ラクな方に慣れてしまうと鎌田は気難しいと思うことさえある。ただこちらも典型的ないい子を、取材の中でさえ求めていたことに逆にこの日の鎌田のコメントから気付かされる。

時折ユーモアを見せてくれるが、これも少々分かりづらい。この日もPK戦の順番はどう決まったかという話になったとき、鎌田はこう明かした。

「監督が俺かハセさんのどちらかのうち一人って言ったので、ハセさんPKあまりうまくないので俺が蹴るって即答しました」とやや“長谷部ディス”を入れながら真顔で説明した。

一方長谷部にこの話を聞くと「監督に蹴るかと聞かれたので『もちろん蹴ります』って答えて、まず大地か俺かどちらかがという話になり、他の選手も蹴りたかったみたいで俺は6番手になりました。回ってくるな回ってくるなって思ってましたよ(笑)」という具合だ。長谷部の話の方が笑いやすい。でも、きっとこれが鎌田だし、長谷部のPKが下手という部分にも笑って良いのだ。

優勝が決まったあと、選手たちがスタンドにかけより喜びを分かち合い、踊り歌うようなおきまりのシーンがあった。バルセロナやウェストハムに勝利したあとも同様だったが、長谷部よりも鎌田はさらにそのセレブレーションへの参加が消極的だ。だが、「あれ、一度始めたらずっとやってるから」と長い時間続くことへの文句を言う。

ただ、無関心を装い集団の後方でひとりで静かにチームメイトを見守っていると決まって誰かが輪の中に引っ張り入れる。そして前方に押し出されてチームメイトと一緒に手を振り上げたりなどしている。「ああいうの、日本人にはあまりなじまないと言うか」と鎌田は言うが、これもきっとうれしいに違いない。

鎌田を見ていると以前にシャルケで活躍していたころから度々内田篤人さんが言っていた言葉を思い出す。

「言葉ができないからチームメイトになじめずパスが来ない、居場所がないなんてあり得ない。ピッチで結果を出せばそれが全て」

鎌田を見てるとその言葉そのものに見える。ピッチで結果を出す、周りは鎌田を理解しようとする、その流れでフランクフルトで愛される存在になってきたのだろう。 決勝後のミックスゾーン、英語メディアに話しかけられた鎌田は「I can’t speak English」と大声で言ってその取材を断った。いや、英語話してるじゃんと思ったが、このあたりの天邪鬼さ故に理解しづらいやつであることは間違いない。日本代表にも再び召集され、より大きな舞台で結果を出すチャンスが増えてくればそれもまた変わってくるのかもしれないと冒頭のコメントを聞きながら思った。

取材・文:了戒美子

1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U-20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住

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