【ナビスコカップ決勝|編集長の視点】勝敗を分けた指揮官のマネジメント力。宇佐美は戦術に消された SOCCER DIGEST Web 10月31日(土)19時15分配信

完敗した原因は、二大エースの体たらくにあった。

 大会史上最多6回目の栄冠を狙う鹿島と大会2連覇を目指すG大阪のナビスコカップ決勝は、予想以上のワンサイドゲームとなった。

立ち上がりから勢いよく攻め立てた鹿島が、0-0で迎えた60分に小笠原のCKからファン・ソッコのヘッドで先制すると、終盤の84分には再びセットプ レーから金崎が頭で叩き込んで2点をリードした。拮抗した時間帯も多少なりともあったが、ほぼ鹿島ペースで進んだ試合は最終的に3-0という大差がついて いる。

シュート数(鹿島が24本、G大阪は5本)を見れば、両チームの差は一目瞭然だった。

鹿島が素晴らしかったのはもちろん、G大阪が酷過ぎた印象がある。長谷川監督が「完敗です。鹿島の力に圧倒された」と試合後にコメントしたように、後半に入ってもリズムを掴めなかったG大阪はチームとしてほとんど機能していなかった。

敗因のひとつは、宇佐美の体たらくだろう。

鹿島陣内にいてこそ脅威になるアタッカーが、この日は前半からだいぶ守備に追われていた。見せ場は23分のドリブルシュートと54分のミドル程度。ディフェンスの局面で体力を浪費したせいで、後半はほぼ消えてしまっていた。

宇佐美がエースとしての役割をまるで果たせなかったのは、長谷川監督の「攻撃の起点を作れなかった。90分間を通して活路を見出せなかった」という言葉からも分かるだろう。

中盤では、遠藤保の低調なパフォーマンスが気になった。攻撃の局面ではいくつか好プレーを披露したものの、鹿島がカウンターを発動させた際はフィルター として効いていなかった。アンバランスな振る舞いで中盤のバランスを保てなかった遠藤の体たらくも、敗因のひとつだろう。

二大エースの不振に引きずられるかのように、最前線のパトリックもトップ下の倉田も沈黙。「個人技に期待して途中からピッチに送り込んだ」(長谷川監督)大森もリンスも、存在感を示せなかった。

この日のG大阪は、宇佐美にボールが入らないと攻撃が始まらなかった。にもかかわらず、その宇佐美に守備という足枷をつけたのだから、長谷川監督のチー ムマネジメントには疑問符が付く。ボールを持てば個の技術は際立っていた宇佐美に戦術は邪魔になるのではないかと、そんな印象さえあったほどだ。

現代サッカーで「戦術が邪魔」という表現は正しくないかもしれない。戦術のなかで輝いてこそ一流選手と言えるだろうが、とはいえ戦術に組み込んでかえっ て選手の個性が消してしまうことはしばしばある。実際、この日の宇佐美については、守備に追われてスタミナを浪費するぐらいなら、攻撃に専念させたほうが よほど効果的なように映った。

個性を消さないように戦術に落とし込むのが指揮官の仕事であって、その点で長谷川監督は宇佐美の能力を引き出せなかった。

宇佐美は戦術に消されたと、そう言えるかもしれない。

鹿島のジーコスピリッツを改めて見せつけられた。

 一方、鹿島は組織的によくまとまっていた。

2トップの金崎と赤崎は持ち前のアグレッシブなプレーで果敢にゴールを狙い、サイドハーフの遠藤と中村はセカンドボールをケアしつつ、チャンスメイクに も顔を出す。そして2ボランチの柴崎と小笠原は中盤でバランスを取り、最終ラインの4バックは身体を張ってピンチの芽を摘んだ。

仕掛けても点が取れない嫌な時間帯にそれでもG大阪に流れをかっさらわれなかったのは、そうした機能美が最後まで保たれていたからだろう。なにより、G大阪の遠藤保よりひとつ年上の小笠原が試合を通して足を止めずに戦っていたのは象徴的だった。

途中からサイドに入りダメ押しの3点目を決めたカイオなども含め、適材適所の起用法で内容と結果を両立させた石井監督の采配が当たったことを考えれば、勝敗を分けた最大のポイントは指揮官のマネジメント力と言える。

指導歴はさて置き、今回のファイナルでは鹿島の石井監督がG大阪の長谷川監督に“勝ち方をレッスン”した格好だが、もうひとつ見逃せなかったのは伝統の力だ。

攻撃力が売りのG大阪を無失点に抑え、パーフェクトに近い戦いぶりで大会史上最多6度目のナビスコカップ制覇に導いた石井監督は、鹿島の勝負強さについて次のように話していた。

「ミーティングで(小笠原)満男がこう言っていました。『ここで勝つのと負けるのでは本当に違う』と。そういう気持ちを選手が常に持っていることが一番重 要だと思います。満男とかソガ(曽ヶ端)とかモト(本山)とかの年代がやっぱりチームにいるのは重要。アントラーズがタイトルを獲ってきて、積み重ねてき た部分を継承してくれているのは大きい」

タイトルが懸かったビッグマッチで昨季三冠のG大阪さえも圧倒した鹿島のジーコスピリッツ。タイトルを義務付けられたアントラーズの底力を改めて見せつけられた試合でもあった。

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