【ナビスコカップ決勝】宇佐美は8戦不発と“スランプ状態”。鹿島の猛攻に晒されて「死に駒」と化す SOCCER DIGEST Web 10月31日(土)19時45分配信

G大阪が放ったシュート5本のうち、宇佐美が3本を放つも…。

約60メートルの独走ドリブルが、最大にして唯一の見せ場だった。

大一番で最近の定位置である左MFで先発した宇佐美貴史は、対峙した鹿島の遠藤康や西大伍の上がりに引っ張られる形で守備に奔走。左サイドで攻撃の起点となった回数は、片手で足りるほどしかなかった。

G大阪サポーターを最も熱狂させたのが、冒頭のドリブルだ。23分、鹿島のFKを撥ね返すと、自陣のエリア前でこぼれ球を拾った宇佐美が相手ふたりを引 き連れながら約60メートルもの距離を力強く持ち上がり、左足を振り抜いた。シュートは惜しくもGKに止められたが、“得点の匂い”を感じさせた数少ない シーンだ。

宇佐美はいくつかの敗因を指摘する。ひとつ目は、最前線のパトリックが機能不全に陥った点だ。

「前(パトリック)になかなかボールが収まらない状況が続いたので、後ろから前に行けない展開が続いた」

鹿島の激しく、素早い寄せに潰される場面が続出し、仕掛けの局面で考える時間もスペースもないに等しかった。

また、守備面でも「序盤からウチはなかなかギアが入らなかったけど、鹿島は出足が良く、セカンドボールも拾われた。ガンバに慢心があったかどうか分から ないけど、向こうに勢いがあった」と振り返る。長谷川健太監督も指摘したとおり、局面での攻防でことごとく後手を踏み、終始、劣勢に回った感は否めない。

シュート数の差が、この日の攻防を物語る。G大阪の5本(前半2本、後半3本)に対して、鹿島は24本(前半10本、後半14本)。宇佐美は5本中3本のシュートを放っており、攻撃が機能不全に陥ったなかで唯一の光となっていたと言える。

失点後に揺れたG大阪。「前に行くのか後ろに残るのか、少しチグハグだった」(宇佐美)

 数少ない好機に絡んだ宇佐美にしても、時間が経過するにつれて存在感が薄れ、ピッチと言う盤上で“死に駒”と化していた感は否めない。ただ、それは個人だけの問題ではない。先制点を献上後、チームに多少の迷いがあったと証言する。

「後半から流れが変わるだろうと思っていたけど、主導権は鹿島にあった。耐え抜くなかで先制点を取りたいと考えていたけど、(鹿島に)セットプレーから先に取られて、それからは(チームが)前に行くのか後ろに残るのか、少しチグハグだったと思う」

攻守両面で鹿島の前に膝をつくとなり、宇佐美は素直に敗北を認めた。

「序盤から鹿島の時間帯が続いて、1試合を通して押された。決定機もチームとしてあまりなかったし、“負けた”という感じがする」

ただ、ミックスゾーンに現われたエースは、決して悲観していなかった。一つひとつの質問にしっかりとした口調で応じながら、今後のタイトルを見据える。

「タイトルを獲るのが難しいのは分かっている。だからこそ気持ちを切り替えて、残りふたつ(年間優勝と天皇杯)を狙いたい。表彰台で喜ぶ鹿島の選手たちの 姿を目に焼き付けておくことは大事。まだすべてが終わったわけではないし、獲れるタイトルに向かって全力でやっていきたい」

リーグ戦では年間3位とCS出場圏内に留まっており、天皇杯でも4回戦に駒を進めている。2年連続3冠の野望は潰えたものの、チームはいまだ2冠の可能性を残すだけに、エースには今まで以上の期待が懸かる。

「表彰台で喜ぶ鹿島の選手の姿」を発奮材料に、エースは飛躍を遂げる。

 9月と10月の過密日程による疲労の影響もあるのだろう。宇佐美は9月26日の柏戦以来、ナビスコカップ決勝も含めると、公式戦8試合ゴールから遠ざかっている。序盤戦は1試合・1得点のペースでゴールを量産していただけに、8戦不発はスランプとも捉えられる。

今季途中にFWから左MFに移った影響も大きく、与えられた役割の変化がゴール減の主因に違いない。また今回の鹿島戦に象徴されるように、相手の2列目 やSBに攻撃力の高い選手を置かれると守備に体力を割かれ、結果的に“死に駒”や“遊び駒”の立場に追い込まれてしまう。

もっとも、宇佐美自身もそれを自覚しており、脱皮を遂げようともがいている。「サイドに張ってドリブルするだけではない」という言葉がそれを示す。

「相手が距離を取って2、3人で守ってくれば、パスなりミドルシュートで打開すればいい。相手にどういう対応をされても、それを上回るプレーをしたい」

13年夏にドイツから帰国後、チームに4冠をもたらしたエースは、「表彰台で喜ぶ鹿島の選手の姿」を発奮材料として、さらに飛躍を遂げるはずだ。

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