【浦和】「ボランチ柏木陽介」の功と罪。「集中が切れていた」と遠藤保仁から厳しく指摘される SOCCER DIGEST Web 11月29日(日)19時7分配信

パトリックに関根がマークにつくミスマッチ。昨季のように、勝負どころで細部を詰め切れず。

 Jリーグ・チャンピオンシップ準決勝の浦和-G大阪戦は、延長後半のアディショナルタイム、遠藤のFKからパトリックが3点目をねじ込み、試合を決定づけた。

なぜ、パトリックがフリーで抜け出せたのか。

ゴール前のペナルティエリア付近、浦和の選手は右から平川、森脇、阿部、柏木、関根という順に並んでいた。すると柏木は関根に、サイドに残っていたパトリックのマークにつくように言った。

パトリックを関根に任せる。相手の一番大柄な選手に、一番小柄な選手がマークにつく。しかも関根は足が攣り、全力で走れない状態にあった。明らかなマーカーのミスマッチが起きていた。

しかも、パトリックはより狡猾だった。関根からそっと離れ、遠藤の足下にセットされたボールだけを見る“ボールウォッチャー”になっていた柏木の「背中」を取って加速。柏木に気付かれずにまんまと浦和の最終ラインを突破し、遠藤からの正確なキックを受けたのだ。

阿部や森脇がその状況に気付いてマークにつくか、せめて柏木がマークについても良かっただろう。柏木はパトリックの動きにも細心の注意を払わなければな らなかった。そもそも、本来ストッパーである槙野が攻撃参加し、相手エースの守備を関根に任せていたチームとしての判断にも問題があったと言えた。

昨季33節の鳥栖戦の後半アディショナルタイム、GK林が前線に上がってきたことでマークが曖昧になり、CKから小林にヘッドで同点弾を食らった(スコ アは1-1)、「あの時」と共通する過ちが、またも繰り返されたのだ。チームの中心である阿部や柏木、そしてペトロヴィッチ監督がそういった勝負の細部に 目を向けなければ、やはりこうした大一番をモノにはできないということなのだろう。第1ステージの快進撃は素晴らしく、一段と攻撃の魅力の増した試合も多 くあった。だが結局、今季も勝つべき試合を落としてきた印象のほうが強く残った。

してやったりのG大阪の遠藤は次のように明かしていた。

「我慢のサッカーが、ガンバのサッカー。最後は、浦和の集中が切れていた。ボールをキープしようかと思っていたところで、パト(パトリック)がフリーになった」

「勝負弱さはあったと思う」と柏木。加えて9試合連続失点と守備が安定せず。

 また後半開始直後の47分、G大阪の先制点は、那須から森脇へのパスをインターセプトされて決められた。そのミスパスが致命傷を招いたわけだが、今野の飛び出してきたスペースをカバーし切れなかったのが柏木だった。

浦和の3-4-2-1システムは、3バックの誰かが前に出た際、最終ラインにボランチ(阿部)が加わり補完することで成り立つ。昨季途中までボランチのレギュラーを務めた鈴木も、そのCBを兼任する“ミシャ流ボランチ”の役割をシステマチックにこなしていた。

ただ、今回の先制点の時のように、常に阿部が戻り切れるわけではない。柏木がスペースを埋めたほうが効率の良いケースもある。

シーズン終盤の浦和は、攻撃の迫力が増した一方、その「阿部が戻れない時の守備」など、いくつかの課題が改善されないまま失点を重ねた。バイタルエリアがフワッとがら空きになり突かれる――という展開が目についた。9月19日の第2ステージ11節・清水戦から今回のG大阪戦まで、9試合連続で失点を喫している。その守備では頂点には立てないという現実を突き付けられた。

「良いサッカーができていて、ヒガシ(東口)が当たっていたなと思う。ただ後半の終盤、逆にチャンスを作れたので、そこで決め切れない勝負弱さはあった気がする」

G大阪戦後、柏木は声を振り絞るように、そう振り返った。

「(G大阪の2点目は)アクシデント的な、みんなの気が緩んだ瞬間にやられてしまった。普段入らないようなシュートが入って、逆にこっちは普段入るシュートが入らない。そういう部分で、持っている、持っていないという差は出たと思う」

そして、彼は唇を噛み締め悔しそうに言った。

チームの中心にいた「浦和の太陽」。特長を最大限に活かすのであれば、システム変更も視野に入れるべきか。

「サッカーの内容で負けたとは思っていない。ただ、負けたからなんにも言えないけど、正直、ガンバに負けるのは悔しい。負け惜しみと言われるかもしれないけど、苛立ちを覚えている。正直。今はなにを言おうとしても、イラついたことしか言えない」

柏木はそう語ると、うつむきながら足早にスタジアムを去った。

2015年シーズン、浦和は柏木のシャドーからボランチへのメインポジションの転換により、攻撃のバリエーションが実に多彩になった。武藤や関根の積極 性が噛み合い出すと、クオリティも上がっていった。加えて柏木のハードワークの質と量も増し、チームへの貢献度は申し分なかった。

チームの中心にいたのは「浦和の太陽」柏木だった。

そこまで制約を受けず、自由にプレーすることで、柏木の豊富な攻撃のアイデアやテクニックは活きる。ただ、現在の3-4-2-1布陣のボランチとしてプレーするとなると、超攻撃的だが守備に不安を抱える“諸刃の刃”と言える存在になっていた。

一つひとつの経験を積めば、ボランチに求められる危機察知能力は磨かれるはずだ。ただ、柏木の長所を活かすのであれば、自由度の高いシャドーへのポジ ション復帰、もしくはシステム変更(アンカーを配置する?)など、新たな試みをするのも手だろう。ペトロヴィッチ監督の就任から、来季は5年目を迎える。 一貫して採用されてきた3-4-2-1システムも、なにかしらの変化を付ける過渡期を迎えているのかもしれない。

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