誰よりも早く交代させられた宇佐美。CS決勝でガンバのエースは甦るか。 Number Web 11月30日(月)20時1分配信

決勝ゴールを決めた藤春廣輝が大勢のマスコミに囲まれている。MVPの東口順昭らガンバ大阪の選手がチャンピオンシップの準決勝で浦和レッズを撃破し、喜びの表情を見せる中、ただ一人浮かない表情をしてミックスゾーンを通る選手がいた。

宇佐美貴史だ。

「自分たちがボールを保持できず、思うように攻撃できなかった……」

リュックを背負い、伏し目がちにボソボソと短く語る。この日のパフォーマンスと早い時間での交代が象徴するように、エースとしての“力”を誇示することができなかった。

この試合の宇佐美は従来の左サイドではなく、トップ下に入った。「一番好きなポジション」でのプレーに、彼は攻撃のイメージを膨らませ、どう点を取るか 考えを巡らせたはずだ。試合が始まると、居心地良さそうにプレーし、中央からドリブルしてシュートを放つなど持味を出していた。

だが、守備で浦和の柏木陽介にプレッシャーをかけられず、自由にボールを散らされた。そうして、相手にボールを握られると、チームはカウンターにしか活路を見出すことができなくなった。すると、宇佐美も沈黙してしまった。

一度は大久保に得点王を断念させかけたが。

 上半期、特にファーストステージ序盤の宇佐美の活躍は驚異的だった。8試合で9得点を挙げ、すさまじい稼ぎっぷりに、今シーズン3年連続得点王を獲得し た大久保嘉人に「宇佐美が凄すぎて、今シーズンの得点王はムリだと思った」と、半ば白旗をあげさせるほどだったのだ。宇佐美自身も「今は、自信を持ってや れている。必ず得点王を獲る」と、その好調に手応えを感じていた。

ところがセカンドステージに入るとブレーキが掛かり始めた。最初の躓きは、体脂肪率だ。ハリルホジッチ監督に10%以下に体脂肪を絞るように言われ、炭水化物、糖質の制限などで体を絞った。体は軽くなったが、パワー(出力)が落ち、ゴール前の力強さが見えなくなった。

19得点では、宇佐美には物足りない。

 また、日本代表と同じ左サイドでプレーするようになった影響も出ている。ゴールから距離が離れてしまい、自分で決める難易度が増した。宇佐美の良さのひ とつである得点感覚はゴールに近いところでこそ発揮されるが、その良さが失われ、一定の角度からワンツーでもらってシュートなどパターン化した攻撃が増え た。

ナビスコカップ決勝で戦った鹿島の昌子源が「サイドに入ってから攻撃がワンパターン化しているんで、それほど怖さはなかった」と語ったことが象徴するよ うに、各チームは宇佐美対策を十分に練り、その効果が数字にも表れてきた。セカンドステージは17試合でわずか6得点とゴール数が激減し、9月26日の柏 戦以来5試合ノーゴールでセカンドステージを終えたのだ。

並みの選手なら、チームに得点のお膳立てをすれば「よし」とされるだろうが、宇佐美はガンバのエースであり、日本代表のエース候補でもある。宇佐美が 持っているポテンシャルからすれば、シーズンの結果(19得点)は物足りなさが残る。ゆえに、このチャンピオンシップの大一番でエースとしての意地を見 せ、結果を出せるのか。宇佐美の「今後」を推し量る意味でも、浦和戦は非常に重要だったのだ。

「貴史の足がとまったのを見て」は本当か。

 だが、宇佐美はエースとしての役割を果たすことができなかった。パトリックが前線で頑張ってキープしている中、連動する動きの量が少なかったし、プレー 自体も淡泊だった。前半こそ3本のシュートを放ったが、後半は動きが落ち、ピッチから消える時間が増えた。長谷川健太監督は試合後、「貴史の足がとまった のを見て、交代した」と語ったが、本音はプレーそのものにも物足りなさを感じたからだろう。

ベンチに落ち着いた後も、試合を見つめる表情は心あらずという様子で、試合に入っている感じはしなかった。試合が終わったあとも、その表情はどこか冴え なかった。1年前、サンフレッチェ広島とのナビスコカップ決勝でリンスと後半39分に交代し、勝った後にベンチで涙を流して喜んでいたのとは、まるっきり 違う姿がそこにあった。

海外からのオファーに心を奪われていないか。

 この試合の数日前、宇佐美に海外クラブから打診があったという。海外クラブから興味をもたれるのは、宇佐美自身がこれまで成し遂げてきた実績への評価であり、すばらしいことだ。宇佐美は、日本でこうした権利を得られる数少ない選手の1人であり、それだけのポテンシャルを持っていることはハリルホジッチ監 督も認めている。

この時期に正式なオファーが来ているとすれば、内心は落ち着かないだろう。一度海外で苦汁を舐めているだけに、今度はどうしても慎重にならざるをえない。決断するまでの時間は限られているし、家族もいるので考えることが多いはずだ。

だが、もし、そうした部分がプレーに影響したのであれば、本末転倒だ。宇佐美はガンバのエースとして点を取り、ガンバを勝たせる責任がある。それがホッ フェンハイムからガンバに戻ってきた時、快く受け入れてくれたガンバへの恩返しになるし、それを実現してこそのエースだろう。

エースが最初に交代させられたことの意味を。

 また、チャンピオンシップのような大一番で結果を出し、チームを勝利に導くことでプレイヤーとしてひとつ上のレベルにいくことができる。そのレベルに達するために日本に帰国し、ガンバに戻ったはずだ。

では宇佐美は帰国して2年半、エースとして重要な試合で爪痕を残せただろうか。たとえば昨年、3冠を達成したが天皇杯決勝の山形戦では2得点1アシスト の活躍をした。しかし、広島とのナビスコカップ決勝は得点を奪えず、リーグ戦優勝を決めた徳島戦はスコアレスドローに終わった。今シーズンはセカンドス テージの鹿島戦での2ゴールは見事だったが、乱打戦になった川崎戦、勝利が必要だった万博での広島戦では沈黙し、さらにナビスコカップ決勝の鹿島戦では前半にカウンターで持ち込んだ決定機を外すなど点を奪うことができなかった。

そして、今回の試合である。

チャンピオンシップ準決勝という一発勝負の重要な試合で、エースがチームで一番最初に、しかも後半27分という早い時間に交代させられたという現実を宇佐美は今一度、噛み締めるべきだろう。

広島に勝つには、エースのゴールが不可欠だ。

 幸い、ガンバはチャンピオンシップ決勝に進出した。対戦相手の広島は浦和よりも攻撃が多彩で強烈なカウンターを保持しており、得点力(73点)がある。 しかも守備も30点と最少失点で非常に強固だ。セカンドステージでは11月7日、上り調子だった広島に0-2で敗れている。今回120分間戦い、中3日で試合を迎えるガンバよりもコンディションは間違いなく良いし、ガンバの両サイドについてしっかりと対策を練ってくるはずだ。

勢いのある相手を倒すには、エースの力が不可欠だ。宇佐美のゴールをチームメイトは待っている。エースのゴールはチームに「勢い」をつけるからだ。サポーターは2カ月間、宇佐美のゴールを見られていない。一番忸怩たる思いを抱いているのは宇佐美本人だろうが、ここが正念場だ。

広島との決勝(2試合)の大舞台で、ガンバのエースとして、日本代表のエース候補として、その呼称が実力が伴ったものであることを“結果”で証明してほしい。

宇佐美の覚醒に期待したい。

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