堂安律「なんで出れへんのやろ」 ガンバが英才教育を施す天才の苦悩。

ガンバ大阪U-23は、J3今季最終戦でYS横浜に0-2の完封負け。10勝8分12敗の9位でシーズンを終えた。

試合後、最終戦の内容のように浮かない表情を見せたのが堂安律だった。前節の秋田戦で10得点とゴール数を二桁に乗せ、来月24日の天皇杯に向けてアピールしたいところだったのだが……。

「いやーもう腹が痛くて。前半はボールが入ってきたんで我慢してやれたけど、後半は痛いし、動けへんし、サッパリでした。なんか変なもん食べたかなぁ……分からへんけど、こんなことしてたらダメですよね」

サバサバした表情ながら反省が口をつく。

「21試合で10点はまずまずやと思うんです」

相手はJ3の最下位のチーム、ガンバは17歳から23歳の若いチームとはいえ、堂安を始めトップチームの経験のある初瀬亮やU-19代表でアジアを制したメンバーの市丸瑞希ら能力が高い選手がおり、もっと相手を圧倒してもいいはずだ。しかし、ボールこそ保持しても相手に合わせてプレーしてしまい、ガンバらしい攻め倒す迫力がなかった。

堂安は腹痛の影響があったせいか、右サイドからトップに移動し、守備は控えめで運動量も少なめ。メインスタンドで見ていた山口智(ガンバ大阪U-23強化担当)も渋い表情だった。

結局、フル出場したがゴールを奪えず、全30試合中21試合出場10ゴールでシーズンを終えた。ガンバの次期エースと称される逸材は、この数字をどうとらえているのだろう。

「J3の試合に出れたのはいい経験になっているし、21試合で10点はまずまずやと思うんです。でも、J1の試合にほとんど出れてない。今年はJ1にどんだけ絡めるかというのがテーマやったし、J1に出ることで成長できると思っていたんですよ。そういう意味では今年の成長はぜんぜんっすね。J1にいれたらもっと成長できたと思います」

長谷川健太に要求された、足元以外のプレー。

堂安のJ1出場記録はセカンドステージ5節、8節、9節の3試合で25分の出場に終わっている。

「なんで出れへんのやろ」

シーズン中には、思い悩むこともあった。

そんな時、長谷川健太監督が出場できない理由を説明してくれたという。

「セカンドステージ、試合に出れない時、健太さんは宇佐美くんが今回海外に行けた理由と、今試合に出れていない理由を現在の俺の立場に置き換えて説明してくれました。簡単にいうと、今の自分ができることに満足するな。もっと違う引き出しを見付けてほしいってことです。そこはそうやなって思うんで素直に聞きました」

違う引き出し――。

自分の得意なプレー以外の幅をもっと増やせということだ。たとえば今シーズン、堂安は長谷川監督から口酸っぱく「裏を狙え」と言われつづけた。足元でボールを受けて相手を剥がすのが得意なので、どうしてもその型ばかりになる。しかし、それだけだと相手に読まれてしまい、脅威を与えられない。

J3の試合はもちろん、トップチームの練習でも、その持味を封じられると途端に消えてしまう。メッシのような技術があれば別だが、さすがにそのレベルにはない。長谷川監督は堂安に力があるのを理解しているからこそ、厳しい声を止めなかった。

チームの裏取り名人の動きを「めっちゃ参考に」。

しかしシーズン中には、自らの幅を広げるゴールもあった。

「ホームの琉球戦のゴールです。岡崎さんからのスルーパスをDFの裏で受けて、そのまま決めることができた。足元で受けてじゃなく、自分の課題だったDFの裏で受けるプレーができたんで、そういう点ですごく意味のあるゴールやったと思います」

堂安にとってラッキーだったのは、ガンバに裏取りの名人がいたことだ。チームメイトの阿部浩之の動きを参考に、堂安は「裏への意識」を高めていったという。

「阿部くんは、守備に戻ってめっちゃディフェンスしておいて、攻守が切り替わったらすごいスピードで攻撃に参加して、しかも相手の背後をつくのがうまい。前に走ってボールが出てこない時もあるけど、何度もそれを繰り返してやり続けるし、運動量もすごいなって思うんで、めっちゃ参考にしています」

U-19アジア選手権では、守備に奔走してMVPに。

攻撃の幅、運動量に加え、守備も堂安にはまだまだ課題が多いポイントだ。守備の根本的な発想から、長谷川監督には叩き込まれたという。

「J3の試合では、相手を圧倒するような球際の強さを見せてほしいし、対人で負けてほしくないと言われました。自分でもそれは意識してやってきましたし、それがU-19の大会でも生きたと思います」

AFC U-19選手権バーレーン大会でU-19日本代表は初優勝し、2007年以来となるU-20W杯出場を決めた。堂安は5試合に出場し、FWではなく右MFとして起用されて守備に奔走した。長谷川監督に言われていたことをアジアで実践したのだ。その献身的な姿勢が評価されたのか、堂安は大会MVPを獲得した。

「アジア制覇しても、個人的には何も変わらないですね。プレーで何かができるようになったとかもないし、ただMVPって言われるプレッシャーだけです(苦笑)。

MVPも最初、冗談かと思いました。俺は、何もしてないですからね。1点しか取ってないし、守備はがんばりましたけど、それだけ。ほんまに何もしてへんちゅうねん(笑)」

照れ笑いを浮かべるが、攻撃の中心と自負していただけに守備だけが目立ち、やたらと持ち上げられることに気恥ずかしさを感じているのだろう。

もちろん守備がアジアで通用したこと自体はプラスに考えることができる。だが、堂安からすれば逆に攻撃で目立たないことが問題だった。アジアで90分を通して圧倒的な存在感を示すことができなかった。

苦手なこともある程度できるようにならねば……。

「律のプレーはムラがあるんです」

強化担当の山口智は、そう指摘する。

「スーパーな時はすごいけど、気分とか環境でプレーの差が激しくなる。J1の試合に出るためには、自分の好きな、できることをアピールするだけじゃなく、苦手なことやしんどいこともできる選手にならないといけない。どんなことにでも対応できる柔軟性と力強さを身に付けてほしいですね」

小学生の頃から憧れていた元旦の天皇杯決勝へ。

堂安がJ1で出場機会を増やすには、どんなプレーが必要なのか。

そのヒントを感じたというのが、セカンドステージのジュビロ磐田戦。後半33分に出場した堂安は、左サイドでボールを受けるとドリブルで1人かわして中へ、それを長沢駿が決めてアシストを記録した。途中出場の役割を果たし、結果を出すことができた。

「課題は多いけど、点に絡むこういうプレーを90分通してコンスタントにできれば試合に出れるようになると思います」

近いところでは、まず12月24日から天皇杯が再開される。勝ち進めば、決勝はホームの吹田スタジアムで迎えられる。

「天皇杯の決勝は憧れなんですよ。小学生の頃から、家族と一緒に元旦は天皇杯決勝やぞってワクワクして見ていた。勝ち進んで出場できるのは夢みたいやし、自分が出たら家族も喜んでくれると思うんです。それに向けてYS横浜戦はアピールしたかったんですけど、腹が痛かったんで悔いが残ります」

堂安は、そういって顔をしかめた。

いろんな経験ができたシーズンだったが世界を見渡せば18歳で活躍している選手はゴロゴロいる。チームメイトの井手口陽介は2歳違いで、すでにA代表に招集された。いつまでも「若手」ではいられない。

「来年はJ1でプレーして結果を出す。それを自分に言い聞かせながらやっていきます」

有言実行――。自らの殻をブレイクスルーできれば、J1の先の「世界」も再び見えてくるはずだ。

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