「海外組好き」のハリルも改心。今野泰幸がJリーグの価値を証明した

美しい勝利。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はそんな言葉で、W杯アジア最終予選のUAE戦を振り返った。

昨年のホームゲームではUAEに敗れていること。敵地に乗り込んでのアウェーゲームであったこと。グループ首位サウジアラビアがタイに勝利し、すでに勝ち点を伸ばしていたこと。そうした要素を並べて考えれば、確かに貴重な勝利ではあった。

ただ、美しい勝利や完勝といった表現にはやや抵抗を覚える。

「UAEがどのような戦術を使うか全部把握し、1カ月間準備してきた。選手たちは攻撃においても、守備においても、どのゾーンで、どの瞬間に、何をするか。すべてを完璧に、しかも短い(準備の)時間でやってくれた」

ハリルホジッチ監督がそう語り、胸を張ったように、日本は相手のキーマンである「21番」のオマル・アブドゥルラフマンを封じることには成功した。

オマルの対面となったDF長友佑都もまた、「僕の役割はオマルをしっかり抑えることだった。何時間もミーティングをし、僕らも(選手同士で)議論した。今回は(戦術的な狙いが)ハマった。監督が言ったことを集中して実行した」と振り返る。

だが、オマル封じの一方で、対応が手薄になった15番のイスマイール・アルハマディにはかなり守備網を破られた。シンプルでいてスピードのあるワンツーに、日本の選手が振り切られる場面は多かった。

前半、アルハマディのドリブル突破から迎えたピンチは、GK川島永嗣の好セーブを称えるとしても、後半開始直後にあったUAEの決定機は、彼のシュートミス(左からのクロスに合わせ損ねた)に助けられたものだ。これが決まっていれば、まったく違う結果になっていた可能性は十分にある。

「美しい勝利」というのは、自分たちに都合のいい場面だけをつなぎ合わせた見方のように思う。

そんななか、この試合において勝利とは別のところで価値を感じるのは、Jリーグでの活躍が日本代表につながったこと。すなわち、Jリーグで高いパフォーマンスを見せている選手が日本代表に選ばれ、その選手の活躍が日本代表に勝利をもたらしたという点である。

言うまでもなく、MF今野泰幸のことだ。

このところの今野がガンバ大阪で見せる活躍は、あまりにも際立っていた。特にハリルホジッチ監督も現地で視察していたJ1第2節の柏レイソル戦では、極めてインテンシティの高いプレーを90分間持続(ガンバ・長谷川健太監督が「肉離れを起こすのではないか」と心配するほどだった)。鳥肌が立つほどに素晴らしかった。

「最近のガンバでの3試合で今野がどのようなプレーをしたのかを追跡し、アイデアが湧いた」

ハリルホジッチ監督もそう語っていたように、日本代表はガンバの中盤で出色の働きを見せる”闘犬”を、中盤の選手の配置を変える(ボランチ2枚+トップ下という三角形から、アンカー+インサイドMF2枚の逆三角形へ)ことによって、ガンバでの役割そのままに取り込んだ。その結果、「今野はほぼ完璧なプレーをした。ボールを奪いながら、しかも点まで取った」(ハリルホジッチ監督)。

もともと最短距離で一気にボールとの距離をつめるアプローチの速さには定評があった今野だが、ボランチやセンターバックに入ると、後ろにも注意を払わなければいけない分、どうしても前への積極性を抑えなければならなかった。だが、後ろにアンカー(ガンバでは遠藤保仁、日本代表では山口蛍)が置かれることで、今野は体のなかの本能が目を覚ましたかのように、思い切って前からボールに寄せ、奪いにいくことができるようになった。

しかも、ガンバでのプレー同様、ただボールを奪うだけでなく、奪った勢いを攻撃の推進力に変えることもできていた。タイミングのいい攻め上がりは、ゴールを決めた後半だけでなく、前半からも見られていたものだ。彼が日本代表にもたらしたものは、決して守備の安定だけではない。

試合後、今野本人は「できすぎ」や「たまたま」といった言葉を連発。「普段一緒にプレーしていない選手とやるわけだから、連係もクソもない」と語るなど、必ずしも思いどおりのプレーができたわけではなかったようだ。

それでも与えられた役割を完遂。自身への評価は控え目ながら、チームの勝利には「勝ち点3を取ることが日本代表の目標だから大満足」と素直に喜んだ。一戦必殺の仕事人ぶりは、見事というしかない。

ハリルホジッチ政権下においては、海外組偏重の選手選考、選手起用が目立つ日本代表。この日、途中交代で出場したMF倉田秋も含め、Jリーグでの旬な活躍が日本代表に直結することは珍しい。

しかし、海外組が所属クラブで出番を失い、調子を落とすケースが少なくない昨今、Jリーグ組の実力はもっと見直されていいはずだし、それに値するだけの選手にもっと出てきてほしいとも思う。

日本代表での競争に加わるためには、どんな水準のプレーをし続けなければいけないのか。今野はそれをUAE戦だけでなく、Jリーグで日常的に教えてくれている。Jリーグでプレーする選手、とりわけ若い選手は、しっかりとお手本にしてほしい。

リンク元

Share Button