【ライターコラムfromG大阪】GK田尻健、6年目のJ1デビューは悔しさ残るも…“25分間”で大きな一歩

プロになって6年目。これまでトップチームでの公式戦出場はなかったGK田尻健に、J1初出場のチャンスが巡ってきたのは、第4節のことだった。MF今野泰幸が先制点を奪い、1-0で試合を進める最中の73分、先発GK藤ヶ谷陽介が左ふくらはぎを痛めたことでそのチャンスを掴む。

浦和レッズが相手だということ、過去最高の動員を数えたホーム・市立吹田サッカースタジアムでの一戦だということ、1-0とリードしながらも拮抗した試合展開だったこと……。それだけでも十分すぎるほど、逼迫した状況だったが、さらに追い討ちをかけるように、アディショナルタイムにはペナルティエリア内でMF倉田秋のプレーがハンドと判定され、PKを与えてしまう。背後に真っ赤な浦和サポーターを感じながらプレーする田尻の重圧は、言うまでもなく最高潮に達していた。

「J1でも1、2を争うほどの難しい状況を突きつけられましたが、こんな状況でデビューする選手はそうそういないからこそ、このチャンスをプラスに捉えていました」

相手のキッカーはFWラファエル・シルバ。ここまでの3試合すべてでゴールを決め、すでにJ1トップの4得点を刻んでいた男を相手に、田尻の脳裏には前夜に見ていたスカウティングビデオが思い浮かんでいたと言う。そのイメージ通りに体は反応したが、ラファエル・シルバが蹴ったボールは指先の少し先をすり抜けた。

「前日のスカウティングビデオで、彼がPKを僕の左手側に蹴っていたのを見ていたこともあって反応できたのですが、コースも良かったし、球速も速かった。あれを止められるようにならないと、FC東京戦のヒガシくん(東口順昭)みたいにビッグセーブをできるGKになれない。反省だけが残りました」

試合後のミックスゾーンでこそ、すっきりした顔で振り返っていたが、実は試合終了直後は悔しさから涙をこぼしていた。5年以上も待ち続けたその瞬間に、自分で勝てるチャンスをフイにしてしまったことが、『ヒーロー』になれるチャンスを掴みきれなかったことが、ただ、ただ悔しかった。

それでも、アディショナルタイムを含めたこの日の約25分間は、大きな一歩であったのは間違いない。中でも試合に出ていない時に常に心がけてきた『ピッチに立った自分をイメージして試合を観る』ことが決して無駄ではなかったと感じられたことは、『やり続ける』ことの大切さを彼に再認識させたことだろう。

現在、ガンバ大阪のGKは4名いるが、日本代表GK東口順昭は11日のFC東京戦で左頬骨を骨折して全治約1カ月と診断され、先に書いたGK藤ヶ谷は左腓腹筋の肉離れで復帰時期は現時点で明らかにされていない。つまり、過去、G大阪の『タイトル』の歴史に大きく貢献してきた二人が揃って万全ではない非常事態にある。その中で残すGKは、田尻と鈴木椋大の2名。この状況をヒシと感じているはずの二人が、練習で何を体現し続けるのか。そこに、4月1日に開催されるアウェイでのアルビレックス新潟戦のゴールマウスを誰が守るのか、の答えがある。

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